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「感覚過敏」配慮へ一歩 商業施設など 照明と音抑えた部屋 理解浸透や設備導入が課題

商業施設などで照明や音楽を不快に感じやすい「感覚過敏」のある人に配慮する取り組みが広がり始めている。明かりを落とした部屋や音量を抑えた時間帯をつくるなど、誰もが利用しやすい環境を整える。欧米では普及が進んでいるが、国内での導入はまだ一部。感覚過敏への理解が求められている。

東京都千代田区の商業施設で9月に開かれたイベント。感覚過敏の人に配慮し、音量や明るさを調節できる「センサリールーム」と呼ばれる体験ブースが置かれた。ブース内の広さは8平方メートルで、館内アナウンスは聞こえず、明かりもわずか。

体験ブースを企画したのは、感覚過敏の当事者でもある高校生の加藤路瑛さん(16)。幼い頃から音による刺激を感じやすく、寝るときや人と話すとき以外はノイズキャンセリング機能付きのイヤホンを常に装着している。大きな電車の音や歓声などにさらされると「疲れて体調を崩すことがある」。

加藤さんは12歳で起業し、2020年には感覚過敏のある人向けの商品開発や環境整備のコンサルティングを行う部署を立ち上げた。関連書籍も出している。

商業施設の担当者は「加藤さんからの提案を受けてブースを設置した。好意的な反応は多く、センサリールームの常設を今後検討していきたい」と話す。

常に拍手や歓声が響くスポーツ競技施設でも導入が試みられている。INAC神戸は21年9月、ノエビアスタジアム神戸(神戸市)の観覧室の一部を改修し、サッカー女子プロのWEリーグの試合がある日に利用できるセンサリールームを設置した。

室内は緑を基調とする落ち着いた色合いで、感覚過敏の子どもやその家族が安心して観戦できるようにした。

センサリールーム以外にも、照明の明るさや音量を抑える時間帯「クワイエットアワー」を設ける取り組みも注目されている。

さいたま水族館(埼玉県羽生市)では6月にクワイエットアワーを試験的に導入し、子どもや保護者ら約30人を招待した。休館日を利用して午前10時から2時間ほど入り口周辺の照明を4割程度暗くしたという。

欧米では10年ごろから感覚過敏への理解が進み、公共的な施設などで工夫が重ねられてきた。例えばロンドンの大英博物館やニューヨーク近代美術館は、施設内で強い照明が使われている位置などを示す「センサリーマップ」を作製。英国では非営利団体が資金を募って商業施設などへのセンサリールーム設置を助成している。

日本国内での取り組みは緒に就いたばかり。児童精神科医の市川宏伸氏は「感覚過敏の人たちへの配慮が必要という認識はまだ広がっていない」と指摘する。

川崎市は19年に市内の商業施設でクワイエットアワーを試験的に導入し、売り場の照明を2~5割減らしてレジの音も小さくしたところ、来店客から「暗くて商品が見えづらい」などといった声が聞かれた。

国内では、周囲の光や音といった外部からの刺激に過敏だったり、逆に感じにくかったりと感覚に特徴がある人たちが、少なくとも45万人以上いるとの専門家の推計もある。

明治大学の上野佳奈子教授(建築学)はセンサリールームやクワイエットアワーの普及のために「実際に導入した国内外の事例をもとに手順のマニュアル化が必要」と説明。「刺激の少ない環境を整えることで、感覚過敏への理解も広がる」と話した。

(亀田知明)