· 

やっぱり変だよ、日本の教育4 30代博士でも無給

「今月をどう乗り切ろう」。地方の国立大でポスドク(任期付き博士研究員)をする男性(30)は不安に駆られていた。2020年に博士号を取得。所属大学の教員が主導する研究班で働いてきたが報酬は月7万円ほど。別の研究プロジェクトでは数カ月間を無給で過ごした。

苦しい月はクレジットカードで支出を先送りし親に援助を求めた。今年、常勤研究員になったが、任期は1年弱で収入は月約20万円。奨学金約400万円の返済も残る。「生活できる報酬水準のポストが足りない」

科学技術立国をうたう日本だが博士号取得者が活躍できる環境が整っていない。文部科学省によると18年度の博士課程修了者の29%が20年時点でも非正規雇用。成果を出し次のポストにつながる場合もあるが、年収300万円未満が26%を占める。

物理科学分野11万ドル(約1600万円)、生命科学分野10万2千ドル(約1500万円)。米国企業に採用された博士との差は歴然だ。先が見えない不安は「博士離れ」につながり、博士課程への進学率は00年の約17%から21年は約10%に減った。

「採用では修士も博士も区別しません」。今春、理系の博士号を取得し、化学メーカーに入社した20代女性は就職活動中、複数の企業担当者からこう言われて愕然(がくぜん)とした。「3年間の頑張りは何だったのか」。学歴社会を基本とする日本。だが人種や家柄などに縛られない学びの証明とすべき「学歴」の理念が機能していない。

希望はある。サイバーエージェントは16年、博士採用の専任担当者を置くなど「博士重視」に転じた。広告事業で活用するメタバースなどの開発に高い専門性が欠かせないからだ。

「前例はないが、すぐ確認します」。東京都内の大学で特任助教をする三田雅人は、教員と兼任で働きたいと希望した際の担当者の言葉を覚えている。「非常にポジティブな会社」と感じて入社。今は特任助教とフルタイム勤務の二刀流をこなす。

日本製鉄は今春、リスキリング(学び直し)のために休職制度を作った。博士号取得も視野に期間は最長3年。鉄鋼業界は脱炭素化などの技術革新を迫られ、社内で培ってきた知識では限界がある。「専門性を身につけて業務に生かしてほしい」。伝統的な大企業も変わり始めたのだろうか。

(敬称略)

 茂木祐輔、佐野敦子、下川真理恵、大貫瞬治、石川友理彩が担当しました。