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成年後見制度、進まぬ利用 「報酬一生」「手続き煩雑」で敬遠 柔軟な選任・交代必須

認知症などで判断能力が低下した人を法律的に支援する成年後見制度の利用が進んでいない。高齢社会を支える制度として2000年に介護保険とともに導入されたが、成年後見人に支払う報酬や煩雑な手続きを敬遠して利用をためらう人が目立つ。法務省などは6月に有識者研究会を設置。財産の処分時など必要なときに柔軟に利用できるよう制度を見直す検討を始めた。

「この家は売れないかもしれない」――。今春、60代の女性が80代の母親に切り出すと、リビングに重苦しい空気が流れた。認知症の父親(91)が老人ホームに入居したのを機に母親が暮らす東京都内の一軒家を売却し、同居する計画を立てた。だが、売却の相談をした不動産業者から返ってきたのは「認知症の人は後見人を選任しないと売却できない」という想定外の言葉だった。

民法は、売買契約などの際、その結果を理解できる能力がなければ契約は無効と規定する。認知症の人は判断能力が不十分とされ、所有する不動産を売却する際は成年後見人などを選任する必要がある。

女性は自分が成年後見人になろうと準備を始めたが、後見人は家庭裁判所が職権で選任する仕組み。希望者が選ばれる保証はなく、面識のない弁護士などの専門職が選ばれる可能性がある。女性はこうした事情を知り、親族やケアマネジャーと話し合って、制度を使わないことを決めた。女性は「法の趣旨は分かる。でも父の財産を第三者に管理されることには納得がいかなかった」と振り返る。

厚生労働省の推計では、認知症の高齢者は20年時点で約600万人。これに対し制度利用者は21年時点で約24万人で、単純計算で約4%にとどまる。要因の一つが家族側のニーズとのミスマッチだ。

成年後見制度の相談を受ける一般社団法人「後見の杜(もり)」(東京・目黒)の宮内康二代表は「申請しても親族が選ばれるとは限らず、裁判所による選任の基準も分からない。後見が必要となる場面が終わっても報酬の支払いが続き、使い勝手が悪い」と指摘する。

東京家裁は、弁護士などの専門職が成年後見人に選任された場合の報酬の目安を月額2万円としている。財産が5千万円以上ある場合は同5万~6万円に上がる。選任されると、症状が改善しない限り、被後見人の死亡時まで報酬を支払い続ける必要がある。

最高裁によると、21年に成年後見人や保佐人などに選ばれた3万9571件のうち、親族は2割弱。司法書士や弁護士などの専門職が多数を占めた。制度開始当初は親族が選ばれるケースが多かったが、負担の重さなどから減少傾向にある。

利用を促すため、最高裁は19年1月、全国の家裁に「ふさわしい親族等の支援者が身近にいる場合は身近な支援者が後見人として望ましい」との見解を通知。厚労省も22年度から始まった利用促進計画で「本人にとって適切な後見人の選任や状況に応じた交代の推進」を明記した。

法務省と公益社団法人「商事法務研究会」が6月に立ち上げた有識者研究会では、必要なときだけ制度を利用できる「限定後見」の導入に向けた論点整理が始まった。後見人の柔軟な交代や報酬のあり方などの改善点も議論。法制審議会での検討を経て、26年度までの民法改正を目指している。

成年後見制度に詳しい新潟大の上山泰教授(民法)は、限定後見の検討が始まったことを評価した上で「申し立て後すぐに選任し、不要になったら迅速にやめられるよう申し立て手続きの簡素化や家裁の人員充実も検討する必要がある」と話している。

(木宮純)

 ▼成年後見制度 認知症や知的障害などで判断能力が不十分と判断された人が不利益を被らないように支援する制度。財産保護に偏重していた禁治産・準禁治産制度に代わり、本人の自己決定を尊重する狙いから2000年に導入された。
 本人に判断能力がない場合に選任される「成年後見人」、判断能力が不足するものの日常生活に支障がない場合の「保佐人」、さらに症状が軽い場合の「補助人」の3種類ある。
 家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」と、本人が十分な判断能力のあるうちに指名し契約する「任意後見」がある。