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入試とキャリア形成 人づくりの進め方は

大学が少子化や社会環境の変化に伴い、学生の育成方法を見直している。学生を迎える入試の「入り口」では総合型選抜(旧AO)を増やすなど試験一辺倒の仕組みを変更。キャリア形成を促す「出口」では専門性を養う実学教育に力を注ぐ。生き残りに向けた課題は何か。2人の専門家に聞いた。

 

■学生の探究心を引き出す 教育ジャーナリスト 後藤健夫氏

 

 

2021年度の大学入試では、入学定員数と入学者数がほぼイコールだった。統計上は「大学全入時代」であり競争なき時代だ。

いずれは、受験生の人気が高く従来通り選抜ができる難関大学と、そうでない大学とに二極化されるだろう。国公立大学を含め、大多数は後者に属する。

受験生はえり好みしなければ、誰でも大学に入学できる。つまり、多くの大学は受験生を選抜するのではなく、受験生から選ばれる側になるということだ。

大学は多様化し複雑化する社会に対応しなければ生き残れない。英教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)による最新の世界大学ランキングで100位内に入った東京大学や京都大学でさえも「価値観の多様性、評価の多軸化、活躍の多面化」を求め、学力試験とは別に推薦型選抜方式を設けた。

しかも、高校では22年度から探究学習が必修化され、課題を設定して解決を目指すという、従来は大学が担っていた教育を行う。

大学は学生の意欲を引き出し、より探究的になれるよう「主体的で自立した学習」に主眼を置くべきだ。リポートや課題で学生を多忙にさせることは、むしろ依存性を高め、主体的に学ぶ意欲を減退させる。

大学で主体的で自立した学び方を習得していれば、過去に習得した知識や技術が陳腐化しても、新しい知識や技術に順応できる。

学びを通じて成長する「旬」は人それぞれだ。戦後の復興教育では皆が一律一斉に授業を受け進学し就職した。いまは、福岡ソフトバンクホークスの工藤公康前監督が、59歳で筑波大大学院博士課程でスポーツ医学を学んでいるように、時代は変わっている。

少子化で労働人口が減少し、優秀な人材の取り合いが盛んになるだろう。キャリアを築くにあたり「弁護士で医者で大学教授」といった、複数の才能を伸ばし、生かしていく意識も必要だ。産業界には、デジタル化を進め効率化し、常に意欲的に学び続けることができる環境整備を望む。

 

■学外で挑む環境づくりを ベネッセホールディングス 経営変革推進本部長 小村俊平氏

 

 

日本の高校生はグローバルにみて優秀だ。経済協力開発機構(OECD)が各国の15歳を対象に3年に一度実施する学習到達度調査(PISA)の直近(2018年)の結果では、OECD加盟国で、日本は数学的リテラシー1位、科学的リテラシー2位だ。

特に英語を母語としない国の大学から「日本人の高校生を紹介してほしい」と、よく相談を受けるほど引く手あまただ。

だが、高校生までは比較優位に立っていたものの、大学を卒業する段階になると国際競争で見劣りがちだ。人手不足で学生は仕事を選ばなければ就職しやすくなった。大学時代に自らを伸ばす機会を逸するのではないかと危惧している。

いま必要なのは成熟社会の教育だ。これまでの成長社会では「今努力すれば将来良いことがある」という教育だったが、成熟社会では「将来の良いこと」は何も約束されない。

今を犠牲にして将来に希望を託すのでなく、将来に希望を託して現在をいかによく生きるかということを意識した教育をすべきだ。

その意味で、大学時代は学外にも目を向けて挑戦し経験する機会ととらえる視点が大学も学生も必要だ。

また、大学は集団の中での対応力や、異分野の人たちとのコミュニケーション力などを身につける場としての役割もある。大学入試では多様な人材を選ぶ工夫をすべきだ。

会社面接ではいわゆる「ガクチカ」と呼ばれる「学生時代に力を入れたこと」の質問が定番で学生もその対策に力を入れる。だが、大事なのは「学生時代に行ったこと」を生かして「どう会社に貢献するか」だ。

時代の変化の速さに伴いスキルアップや自己実現を目的とする「パラレルキャリア」が一般化するだろう。得たスキルがすぐに役に立たなくとも別の場所で生きることもある。自分のキャリアを自分でデザインする心構えでいてほしい。

激変する世界情勢下では、日本円でしか給与を得られないことはリスクだととらえてもいいだろう。