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習氏の兵法(5)共同富裕へ内から変える 競争よりも平等、人心に刷り込み

中国式現代化は人類が現代化を実現させるうえで新たな選択肢をもたらした」。中国共産党の習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)は16日の党大会の活動報告で、近年の中国の取り組みは国際社会で模範になり得ると強調した。

 

米欧では経済格差による分断があらわとなり、新型コロナウイルス禍で民主主義の脆弱さも浮き彫りになった。それを尻目に、習氏は23日の演説で急速な経済発展と社会の長期安定を中国の「二大奇跡」と誇った。

 

成績順の枠削減

 

総書記3期目の目標はその両立となる。格差をなくして社会全体を豊かにし、より完全な社会主義に近づける「共同富裕」をスローガンとする。

競争よりも平等を、出世よりも勤勉さを――。習氏がいま、新たに変えようとしているのは人々の心の持ちようだ。

16日の報告で「物の豊かさと心の豊かさ」に触れ「人民の内面世界を充実させる」と訴えた。党が率先し内側から変えていくという「自我革命」との表現も最近目立つ。

すでに受験戦争の現場で競争意識を薄めようとの動きがある。

「成績に関係なく進学校に入れるのはむしろ不公平ではないか」。上海市で小学4年生を育てる張佳さん(仮名)は子どもの将来に不安を抱く。

というのも、上海市が2022年から高校受験の制度を改め、入学試験の成績順で決まる合格枠を減らしたからだ。地元の区や中学校への割り当てを増やし、教育の公平性を高めるという。

 

白に偏る労働力

 

一人っ子が多い都市部で教育熱が過剰となり、若い世代が出産をためらうほど教育費も高騰した。教育面でも広がった富裕層と貧困層の格差是正を狙っている。

こうした「振り分け」は職業選択にも及ぶ。

中国で新学期にあたる9月。今年から小学・中学校で「労働」が必修科目となり「額に汗して働く尊さ」を教え始めた。

中国教育省も技術者を育てる職業学校を増やし、子どもの希望進学先を高校・大学から職業学校に移そうとしている。

高学歴化で大卒生の希望が「白領(ホワイトカラー)」に集中し、労働力構成に偏りが生じているためだ。25年に主要産業で3000万人ほどの人手不足になるという。

共通するのは、個人の意思の持ちようを国の目的に合うように仕向ける発想だ。それで本当に心の奥底にひそむ不満や反発まで抑え込めるのか。

新型コロナウイルス対策では感染防止を名目に、隣人同士が行動制限を守っているかを監視しあう社会を定着させた。

「秦の時代に逆戻りした」。四川省自貢市の一部で世帯10戸ごとに「十戸長」を設けた。相互監視させ問題が生じたら連帯責任にする仕組みは紀元前の統治手法に似る。

「独裁国賊習近平を罷免(ひめん)せよ」。党大会直前の13日。車が行き交う北京市内の陸橋でこう書かれた白い横断幕が掲げられた。写真はSNSで一気に広まり、当局は次々と削除した。

「革命」は常に壮大な実験の側面を持つ。成功して中国を模倣する国がほかに出てくれば、米欧の求心力は鈍る。習氏の内政への傾注はその後の外交力の強化もにらんだものだが、試みはまだ絵に描いた餅にすぎない。