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経済対策、岸田首相「経済下振れに備え」 補正29.1兆円 一律支援、メリハリ欠く

裏付けとなる2022年度第2次補正予算案は一般会計で29兆1000億円を見込む。岸田文雄首相は首相官邸で記者会見し「世界規模の経済下振れリスクに備え、トップダウンで万全の対応を図る」と強調した。

「規模ありき」で一律支援に重きを置きメリハリを欠く内容と言える。経済対策は財政投融資などを入れた財政支出がおよそ39兆円で、民間投資などを加えた事業規模は71兆6000億円程度だ。政府は11月に国会へ補正予算案を出し年内成立をめざす。

首相は決定過程に関し「政治主導の大局観の発揮を重視した。与党党首で大枠を決め、野党の提案も直接聞く機会を設けた」と述べた。

5本柱で構成する。財政支出ベースで①物価高・賃上げ対応に12兆2000億円②円安を生かす施策に4兆8000億円③新しい資本主義に6兆7000億円④防災・減災や外交・安全保障に10兆6000億円⑤今後への備えに4兆7000億円程度――を計上する。

政府は直接的な経済の押し上げ効果を実質国内総生産(GDP)換算で4.6%程度と試算した。消費者物価指数(総合)の上昇率を1.2ポイントほど抑えるとみる。

新型コロナウイルス禍で経済対策に充てる国費は30兆円超えが続く。08年のリーマン危機直後でも国費ベースで15兆円台だった。「ウィズコロナ」への移行期に入っても財源の大半を国債に頼る大規模な歳出が続き、財政規律は一層緩む。

今回の対策は燃料相場の高騰や円安に伴い上昇する電気代やガス代の支援が柱となる。23年1月以降の早期に始める方針だ。

電気代は一般家庭向けの「低圧」契約で1キロワット時あたり7円を補助し、現在の価格で2割ほど負担軽減する。企業向けの「高圧」は同3.5円分を支援する。直近の販売電力量から単純計算すると支出額は3カ月で1兆円に迫る。23年9月から補助幅を縮小する。

都市ガスは1立方メートルあたり30円分を援助し、1割強引き下げる。LPガスは直接の軽減策は講じず配送合理化を支える。

ガソリン価格を抑えるため石油元売りに配る補助金は続け、23年6月から段階的に縮小する。光熱費やガソリン代の支援に計6兆円を投入し、標準世帯のエネルギー関連支出は23年1~9月に総額4万5000円ほど少なくなると見込む。

世帯収入や企業規模で線引きしない一律の支援で歳出は膨らんだ。首相は「欧米のように10%ものインフレ状態にならないよう生活を守る」と語った。

働く人のリスキリング(学び直し)支援には5年で1兆円を充てる。成長分野への労働移動や賃上げを促す。

成長分野への投資を促すためスタートアップ、イノベーション、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)の4分野に計6兆円を投じる。

子育て支援では妊娠届と出生届を提出した場合に計10万円相当を支給する。

景気悪化に備える1兆円規模の「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」(仮称)を設ける。「新型コロナ・物価高対策予備費」にも3兆7000億円を積む方針だ。予備費は予算成立後に政府が使い道を決めるため国会の監視が及びにくい。

20、21年度は使い切れずに翌年度に繰り越した予算額が20兆~30兆円規模にのぼった。

各省庁が23年度予算の概算要求に入れた内容の実質的な付け替えも目立つ。総務省の放送コンテンツの海外展開事業などの例がある。

経済対策は景気の落ち込みの際、緊急に需要を底上げするのが本来の目的だ。「規模ありき」なら緊急性が薄く効果の乏しい事業が紛れ込みやすくなる。予算を消化しきれず、債務残高が膨らむ悪循環が続く可能性がある。