中央日本土地建物グループが挑戦のステージを引き上げた。2020年4月、日本土地建物グループと中央不動産グループが経営統合して財務基盤を強化し、大型再開発「虎ノ門一丁目東地区第一種市街地再開発事業」(東京・港)など4大プロジェクトを並行させ推し進める計画だ。「4大プロジェクトはどれも共同事業者や地域の人々から託されたもの。個性を守り丁寧に仕上げる」と三宅潔社長。すべてをやり遂げた時、東京はまた国際都市として新たな個性を帯びることになる。
街の個性 引き出し伸ばす
中央日本土地建物グループは、日本土地建物グループと中央不動産グループが経営統合して誕生した。いずれも、みずほ銀行の前身である第一勧業銀行系の不動産会社だ。顧客、地域とじっくり向き合い信頼関係に力点を置きながら丁寧に仕事を進める両社のDNAは共通しており、そのまま経営統合により誕生した新会社にも息づく。

「当社は①オフィスビル開発を中心とした都市開発事業②品質を重視した分譲マンション『BAUS(バウス)』を中心とする住宅事業③企業が保有する不動産の活用支援などのソリューション事業④私募REIT(不動産投資信託)などの資産運用事業――の4つを柱とし、ゴルフ場事業も手掛ける総合不動産会社だ。創業した1954年に比べると規模は拡大し、事業の多角化も進んだが、会社の規模は拡大しても顧客や地域の人たちとともに成長する『共創』の理念は揺るがない」
「企業理念である『共創』の姿勢は当社の生命線だ。都市開発の時間軸は最低10年が単位。地域の人たちと話し合い、時間をかけて街づくりを進めていく。企業としてさらに成長し、大きなステージに上がるために必要ならば上場という選択肢も将来的に検討するが、今は目の前の4大プロジェクトの完遂が先決だ」
統合で2社の力が重なることで財務や顧客基盤が強固になり人材も厚くなった。経営の選択肢も増えた。大型再開発プロジェクト「虎ノ門一丁目東地区第一種市街地再開発事業」など4つのプロジェクトを並行でき成長スピードは大きく上がった。
「旧日本土地建物が手掛けた京橋エドグラン(東京・中央)、旧中央不動産の丸の内センタービルディング(東京・千代田)や新丸の内センタービルディング(同)などを中心に都心部の優良資産が多い。新たな顧客ネットワークと人材も加わり、経営基盤が強化された。分譲マンション『BAUS』事業が軌道に乗り収益力も高まってきたことから、経営統合前なら1つを仕上げるのがやっとだった巨大プロジェクトを今なら4つ並行できる。経営のスピード感が高まっている」
「4つの竣工が当社には歴史的転換点となる。24年度中の完成を目指す『田町駅前建替プロジェクト』(東京・港、20階建て)は地元ニーズに応じた子育て支援施設を整備するほか、環境性能にも配慮し当社が目指すサステナブルな街づくりのスタンダードを示す。25年夏ごろに大阪市の御堂筋の玄関口で京阪ホールディングスと共同で高さ150メートルの高層ビルが完成する。大阪のビジネス街を象徴するランドマークビルとなるはずだ」

「虎ノ門一丁目東地区は当社のシンボル的なプロジェクトだ。地上29階建ての高層ビルを核とした大型再開発であり、下層には国際競争力強化に資する都市機能として「(仮称)虎ノ門イノベーションセンター」を整備する。ここでは霞が関の官庁街に近い立地を活かし『官』と『民』が知恵を持ち寄って共創し、経済発展と社会的課題解決を両立した取り組みやビジネス創出を支援する機能を整備予定であり、すでに近隣のビルにトライアル拠点を開設し、実証をスタートさせている。26年度の完成を目指し、東京の中でも個性的なビジネスの交流拠点となる取り組みがすでに動き始めている」
「内幸町一丁目街区の開発プロジェクトでは南地区の代表施行者として事業を推進する。28年度中の完了を予定している。3地区、10社での共創により約16ヘクタールの日比谷公園とつなぎ、都心最大級の延べ床面積110万平方メートルを整備する」
首都である東京の発展は日本経済の原動力となる。
「地方創生も重要であり避けて通れない。同様に東京は日本をけん引する都市であり続けなければならない。東京のそれぞれのエリアが持つ個性を引き出し、伸ばしていくことは地域密着型の街づくりを貫く当社の役割。その役割を全うしていくことが東京を強くすることになる」
編集後記 住民との交流、大切に
この夏、三宅潔社長は京橋エドグランで開催した盆踊りイベントで「(中央日本土地建物グループの)平松会長と一緒に2時間踊った」。6月から社長を務める三宅氏はみずほフィナンシャルグループ出身。海外勤務が15年以上。「相手が誰であっても懐に飛び込む」。とりわけ現在の会社に転じてからは人との交流を重視している。中央日本土地建物グループが東京・京橋に「京橋エドグラン」を完成させたのが16年、6年たった今でも地域の住民たちとの交流が続く。

「金融の世界なら大抵の案件は1カ月程度で決着がつくが、不動産は10年単位」。だからと言ってのんびりしているわけにはいかない。ビルも"壊さず活かす"というのが今の時流だが、仮に一般的なビルなら寿命は60年、40年たったところで建て替えを検討し始め50年目で決定して準備に入り、残りの10年で建て替える。そう考えれば「4大プロジェクトの後、すぐに次の建て替えがまたやってくる」。その時になって地域住民との関係を築こうとしても遅い。
不動産の世界には不動産の世界の時間軸があり、静かだが確実に動いている。地道で連続した努力が東京を刷新し続けていく。
(前野雅弥)
コメントをお書きください