創造性や探求心を養うための起業家教育が小中高校段階から強化される。これまでは大学生向けが中心だったが、海外と比べ起業の動きは低調だった。文部科学省はイノベーションの担い手の育成に向け、支援事業の対象を2023年度から小中高生へ拡大する。早期の起業家教育が定着するうえで、学校現場の認識のばらつきが課題だ。
起業には社会課題の解決や経済成長が期待される。国は起業家を増やすため、主に大学生を対象に00年代から資金支援や教育に力を入れてきた。起業に関する講座や研修、民間企業との連携プログラムを通じて人材育成に取り組む大学への助成が事業の中心だった。
取り組みがきっかけとなり誕生したスタートアップ企業も少なくない。ただ国際的には起業の動きは活発とは言えない。
国際調査プロジェクト「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)」の20年調査によると、18~64歳のうち「起業準備中」の人などの割合を示す起業活動率は6.5%。10年(3.3%)より上昇したが、米国(15.4%)や韓国(13.0%)などとは差がある。
起業支援のガイアックス(東京)の佐々木喜徳・執行役は「大学生は起業家教育を受ける前に就職の方向性を決めている人もいる。裾野を広げるためにはより早期の取り組みが重要だ」と指摘する。
文科省も低年齢からの起業家教育に活路を求め、23年度からは小中高生向けのカリキュラム開発を促す。当面は授業には組み込まず、大学や自治体が担い手となり希望者参加型のセミナーや体験プログラムを提供する想定だ。
早期の起業家教育は世界の潮流になりつつある。フィンランドは14年、小中学生に必要な能力の一つとしてアントレプレナーシップ(起業家精神)を明示し、職業体験などのプログラムを導入した。近年も有力なスタートアップ企業が誕生している。
日本でも取り組む地域はある。横浜市は地元企業と連携して16年度から、小中高校で商品開発や地域の課題解決を考えるプログラムを進めている。21年度は市立の50校が参加した。市担当者は「起業が将来の選択肢になるきっかけをつくりたい」と話す。
ただ起業家教育の重要性についての認識には学校現場で差がある。自治体からの委託事業で起業家教育プログラムを提供する企業担当者によると、参加学校を募ろうとしたところ、忙しさを理由に断られるケースもあったという。
GEMの21年の調査によると、1人当たり国内総生産(GDP)の上位19カ国のうち、小中高校の起業家教育に対する専門家による評価はフィンランドがトップで、日本は最下位だった。海外の水準に追いつくためにはスピード感も求められる。
武蔵大の高橋徳行学長(ベンチャー企業論)は「日本は起業を巡る環境で劣っているわけではなく、志す人が少ないことが問題」と指摘。「起業に至らなくても課題に向き合う姿勢は将来生きる。好例を集め指導ノウハウを広める必要がある」と語った。
(橋爪洸我)
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