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経済が成長する条件(7) 避けられない産業の新陳代謝 大阪大学教授 堀井亮

第1次産業革命当時の英国では、蒸気機関を動力とする紡績機が生まれ、手織り物労働者は失業しました。失業者は機械を打ち壊し技術進歩に反対しました。ラッダイト運動です。

現代でも、情報関連の新産業が成長する一方で旧産業は衰退し、人工知能(AI)やロボットに仕事を奪われるという指摘を耳にします。古い産業や旧来の仕事を守りながら経済は成長できるのでしょうか。

新技術は研究開発により生まれます。研究開発のリターンの期待値(成功確率×成功したときの収益)が、研究開発のコストを上回らなければ、企業はアイデアがあっても研究開発投資を行いません。特に、成功確率が小さい革新的なアイデアは、成功したときの収益が相当大きくなければ、投資は起きません。

政府が既存企業や旧製品を保護し、潰さないと決めたとしましょう。その場合、新製品が開発されれば市場全体の製品数は増え、アイデアをもとに起業すれば企業数も増えます。

人口が急速に増えているか、海外市場をいくらでも開拓できる状況であれば、全体の需要も増えるので問題ありません。しかし市場が限られる状況では、次第に1製品・1社あたりの需要は減ります。収益が悪化すればリスクを取った研究開発は割に合わなくなり、技術進歩や経済成長は止まってしまいます。

また、新技術を開発しても、それに対応できる人材が得られなければ、企業は収益を上げることはできません。新産業へ人材が流れなければ、やはり研究開発は行き詰まるのです。

産業革命時の技術進歩で手織り物職人は失業しました。しかし、機械化がなければ、現代の生活水準は実現しませんでした。経済成長では、産業の新陳代謝という苦しみは避けられません。しかし、苦しみを軽減することはできます。

ラッダイト運動は、新産業での労働環境の改善を求める運動に転化しました。新技術の生産性が高ければ、企業は良い労働条件を提供する余地があります。再教育プログラムを政府が無償で提供し、労働者の新技術へのシフトを支援するのも良い政策です。