世界中のすし店では自慢のネタを「日本から直輸入」とうたっている。日本産の魚介類は毎朝海で捕られ、新鮮な状態で提供されているという評判がある。では近い将来、自分たちが食べている魚が天然物でも、あるいは養殖物でさえなく、実は水に触れたことすらないものだと知ったら、消費者はどんな反応を示すだろうか。
培養シーフードは、水産物を捕ったり養殖したりするかわりに、それらの細胞を培養することで得られる「魚」や「カニ」を指す。多くの天然物の漁獲量が限界に達している現在、日本の大手商社などは拡大する世界のタンパク質需要を満たすために重要な役割を果たすと考え、この分野に参入している。細胞から培養したシーフードには、食中毒のリスク低減、マイクロプラスチックの混入ゼロ、水銀をはじめとする重金属の含有ゼロといったメリットもある。
では、何が障壁になるだろうか。それは日本の消費者が懐疑的であるということだ。米NPOのグッド・フード・インスティチュートは、日本の消費者が代替シーフードに対して持つ印象を調査した。多くの回答者が、代替シーフードは魚介類をおいしく味わうために必要な新鮮さや天然物といった特性を欠いているとみている。代替シーフードに消極的な理由を具体的に尋ねたところ、日本の消費者の多くが「天然物や養殖物のような新鮮さがない」「信頼できない」といった回答を選んだ。
しかし、状況は変わる可能性がある。日本政府は6月に発表した「新しい資本主義実行計画」で「食糧・資源不足など地球規模での社会課題解決」ができる手段として「バイオものづくり」を明記。経済産業省が補助金を新設するほか、厚生労働省が安全性確保やルール整備に向けて細胞培養食品のリスクに係る基礎研究を始める。
政府の「お墨付き」を得られれば、消費者のイメージは変わるかもしれない。細胞から直接培養したマグロの腹身を、天然マグロのトロと同じように食べられるようになれば、世間の評価も変わる可能性がある。高い品質の食品を世界に提供してきた日本の評判を維持するためにも、こうした生産方法が規制当局や消費者に早く受け入れられることを願っている。
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