「日本の未上場企業の株価は高いままだ」。香港を拠点とする投資ファンド、タイボーン・キャピタル・マネジメントの日本株投資責任者、持田昌幸は戸惑いを隠さない。2022年に入り、上場間近の「レイター期」にあたるスタートアップへの出資を軒並み見送っている。
未上場企業の株価は資金調達時の条件を基に更新される。この条件は会社とベンチャーキャピタル(VC)などの既存株主で決めるケースが多い。日本は「前回の調達時より株価が下がるのを絶対に避けたいという文化がある」と持田は言う。
年間経常収益(ARR)2億円の会社に、評価額120億円で出資してもらえないか――。米資産運用大手フィデリティを母体とするVC、エイトローズベンチャーズジャパンには日々、こんな打診が舞い込む。代表のデービッド・ミルスタインは株式市況などを踏まえ「高すぎて検討もできない」と打ち明ける。上場株と比べた未上場株の割高感が強まると、新規株式公開(IPO)など出口戦略(エグジット)の難易度は増す。
もう一つのエグジットであるM&A(合併・買収)でも難しい決断を迫られる。「サービスや地域雇用を継続するため、ギフティの子会社になる」。衣料品ブランドの立ち上げを支援するpaintory(ペイントリー、岡山県津山市)が9月に開いたオンライン会議。社長の片山裕太は参加した出資者にこう報告した。
ペイントリーは16年の設立。新型コロナウイルス禍で損益は赤字が続いていた。その中で4月、ギフティから提携の打診を受けた。ペイントリーの企業価値を約2億円と算定し、同額の借入金と約20人の社員を引き継ぐという条件を提示された。
創業期から出資してきた大和企業投資の社長、平野清久は「起業家は事業会社傘下で挑戦を続けられる」と片山の決断に理解を示す。株式価値はゼロ。痛みは伴う。
スタートアップ投資はリスクを抱える。VCファンドは投資先の全てでリターンを獲得できるわけでなく、ある程度の損失は想定の範囲内だ。だがエグジットが視界不良になれば、余裕はなくなりかねない。
08年に起きたリーマン・ショック時は新興企業の倒産が相次いだ。ジャフコの執行役員、佐藤直樹は「VCも追加出資の余力がなく、多くが撤退した」と振り返る。真冬への備えは欠かせない。
コメントをお書きください