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鹿島、超高層ビルを切って解体 再開発推進へ工法競う ゼネコン変われるか 造らないケンセツ(1)

都心を中心に大型再開発プロジェクトが今後もひしめくなか、老朽施設の迅速な解体や修繕は都市の競争力を左右する。ゼネコン各社は新技術を投入するだけでなく、「造らない」ことを事業の柱の1つに据え始めた。

 

ビジネスパーソンが行き交うJR山手線浜松町駅。北口を出ると、高さ162メートル、地上40階の世界貿易センタービルの解体現場が目に入る。駅西側の再開発地区「浜松町二丁目4地区」に位置する。3.2ヘクタールの土地に複合ビルなど5棟を建設する計画で、2014年着工、29年度竣工予定の大型再開発だ。世界貿易センタービルは21年8月から23年3月まで20カ月の工期で解体される。

落下しない切断床

7月中旬、ほとんど人影のない地上120メートルの30階で甲高い金属音が鳴り響いた。円盤状の回転式カッターを備え付けた作業機械がゆっくりと前進し、火花を散らしながら床のコンクリート板を切断する。機械が通った後には斜めの切断口が走るが、縦8.8メートル横2.7メートル、重さ6トンの長方形に切断された床は落下せず、隣接する床で支えられる。

解体を請け負った鹿島は、超高層ビルの解体に向けて「スラッシュカット工法」を開発した。ビルの構造を解析した上で倒壊しないようなルートを策定し、落下しないよう30度の傾斜をつけて切断する。1フロアで柱など含めて144ピースに順次切断する。最上フロアの内部には1階まで貫通する穴を通じて、タワークレーンで各ピースを下ろす。フロアは覆いで囲われ、周辺への粉じんや落下被害を防ぐ。

通常のビル解体では最上階に重機を載せて破砕する方法や、建物をブロック状に切り取って順次解体する方法が採用される。ただ、100メートルを超える超高層ビルの上層階に重機をつり上げるのは難しく、危険も伴う。ブロック状に解体する場合も、下から支えて落下を防ぐ支柱を事前に備えるなど手間がかかる。

通常のブロック解体工法では1フロア7日かかるが、スラッシュカット工法は2日短縮でき、全体の工期は2カ月圧縮した。二酸化炭素(CO2)排出量も重機を用いる工法と比べて2割ほどの削減効果を見込むという。

新たな「異名」挑む

世界貿易センタービルは、鹿島が霞が関ビル(東京・千代田。高さ147メートル)に続いて施工した日本で2番目の超高層ビルだ。70年の竣工当時は日本一の高さを誇った。「超高層の鹿島」の異名を取って超高層建築のノウハウを確立させ、その後の事業拡大の礎となった物件だ。

22年4月、解体に向けて最初につり下げられた梁には「世界貿易センタービルヂング」と白いペンキで書かれていた。69年の上棟式で、最後に最上階につり上げられた梁だ。世界貿易センタービルの今回の解体は「超高層解体の鹿島」と、鹿島に新たな異名をつける挑戦だ。

霞が関ビルが68年に竣工して半世紀を超えた。今後100メートルを超える超高層ビルの解体需要が見込まれる。鹿島の伊藤仁専務執行役員は「中小物件であれば専門解体業者でも対応できるだろう。だが、大型物件の設備配管や荷重検討にはゼネコンのノウハウが必要だ」と語る。

大型建築物件(延べ床面積9万5000平方メートル以上)の供給量は五輪開催前の19年度をピークに一度落ち込むが、その後再び増える。27年度以降は19年度を超える量の供給が続く見通しだ。

都心の大規模再開発ではランドマークとなる大型建築物を解体するケースが増えている。小田急百貨店新宿店本館や京王百貨店新宿店を取り壊す新宿駅一帯の再開発は代表的だ。

鹿島の伊藤専務は「築50年を超えるとビルは設備が陳腐化する」と指摘する。全国で相次ぐ大型再開発プロジェクトはデジタルや環境性能など最先端技術の導入でビルの資産価値を高める。先端技術を取り入れるため、世界貿易センタービルのように、老朽ビルを所有者やデベロッパーの判断で解体して新たに建て直す事例は今後増えていくと見られる。

大手ゼネコンは街づくりから関わって、解体から建て替えや新設との一体受注を目指している。都市間競争が激しくなるなか、環境配慮の街づくりを進めているかも評価される。老朽化した施設を迅速に環境負荷も最小限にとどめて解体することが必要だ。

大成建設や竹中工務店も、独自の解体工法に積極的に取り組む。解体は建築の付随事業ではなく、ゼネコンの新たな成長市場になりつつある。

大成や竹中、最上階を「屋内」に

日本の大型ビルは高度経済成長期に相次ぎ建てられたものが多く、日本のビルに占める老朽化したビルの割合は大きくなっている。ザイマックス不動産総合研究所(東京・港)によると、東京23区のオフィスビルのうち、延べ床面積5000坪以上の大規模オフィスビルでは賃貸面積ベースの52%は築20年以上、旧耐震基準と呼ばれる1981年以前施工の物件は15%にのぼる。

旧耐震基準のビルを使い続けるには、耐震補強の投資が必要になる。大規模再開発エリアでなくても、新ビル建設に向けて解体に踏み切るケースが今後増えると予想される。それだけに、ゼネコン各社は独自の解体工法を生み出し、解体から新ビル建設といった一連の需要獲得に動く。

大成建設は「テコレップシステム」という解体工法を2010年に開発した。大型ジャッキで支えたビルの屋上階の屋根と、外周に取り付けた防音パネルで建物上部を覆い、キャップ状の閉鎖空間にする。解体を進めた後に屋根をジャッキで降ろし、最下層まで繰り返す工法だ。

この工法を一躍有名にしたのが、12年に「赤プリ」と呼ばれて親しまれた「グランドプリンスホテル赤坂」(東京・千代田、高さ約140メートル、地上40階建て)の解体だ。高層部に位置する大型ジャッキと覆われていた防音パネルが日に日に低くなっていく様子は話題を集めた。

竹中工務店もビル上部をキャップのような解体工場で覆ってジャッキで支え、内部に設置したクレーンなどを用いて解体を行う「ハットダウン工法」を開発している。12年に旧ホテルプラザ(大阪市北区)で適用した。

増える解体需要、足りぬ人材

解体市場は今後、70年代以降に増加した高層ビルの老朽化に合わせて拡大するとみられる。それまでにクリアすべき最たる課題は人材確保だ。

16年6月、建設業法の改正で、全28種だった業種区分に「解体工事業」が45年ぶりに新たに追加された。従来はとび・土工の建設業許可があれば解体工事が行えたが、国土交通省は「維持更新時代に対応した適正な施工体制の確保」を目的に、新たに解体工事業者の許可取得を義務付けた。事故防止や工事品質の確保のために、解体現場には一定の実務経験や国家資格を有する技術者を配置することを求めたのだ。

足元では建設受注は旺盛で、大型再開発だけでなく半導体工場や大型物流倉庫の新設、リニア中央新幹線や国土強靱化に伴う公共投資など工事量は堅調だ。一方で職人の高齢化や若い入職者の減少が深刻だ。法規制も相まって、超高層を中心とした大規模解体に熟練した職人の確保は難しい。

各社は熟練職人以外に新規入職者の確保のために、作業現場を工場のような屋内環境化するなど現場環境の負担軽減を急いでいる。解体だけでなく、全ての建設現場で取り組むべき課題となっている。

(田村修吾)