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「Web3」時代の戦い方

電気自動車(EV)という同社のハードウエアがどうなるかは当然重要だが、忘れてならないのはサイバー空間で始まるであろうサービス競争に新会社がどう絡んでいくかだ。

メタバースといえば、ブロックチェーン(分散型台帳)を核に次世代のインターネットのあり方を探る「Web3(ウェブスリー)」だ。Web3は米IT(情報技術)大手「GAFAM」へのアンチテーゼだといわれている。

それに対し、Web3は分散型またはビジネスの民主化という目標を掲げる個人や新興勢力が技術革新を担う。GAFAMを通さなくても個人情報が安全に管理できるブロックチェーンを使い、サービスやお金を縦横無尽にやり取りできる環境づくりが目標だ。

 

 

 

覇権の奪還、下克上、番狂わせ、うっちゃり、形勢逆転――。主導権が取引やサービスを提供する新興企業や個人に引き戻されて、そうした言葉が躍る可能性が出てくる局面だ。ではソニーやホンダなど日本のIT、自動車大手はそれにどう臨むのか。カギを握る要素とは何だろう。

ベールに包まれた部分は多いが、ソニーの吉田憲一郎会長兼社長が5月の経営説明会でしていた話がヒントかもしれない。ソニーがめざすのは必ずしもGAFAM的な巨大プラットフォーマーではなく、「クリエーターに寄り添う会社」だという。

Web3の世界では、エンターテインメントも非代替性トークン(NFT)も、個々の作り手、売り手が力を持ちうる。つまりゲームや音楽などの「クリエーター」が重要性を増す時代だ。

一方、グーグルやアマゾン・ドット・コムはいわばインフラを貸すディストリビューター(流通・配送業者)にすぎない。自分のプラットフォームがクリエーターに選ばれなければ、情報やお金は流れてこなくなる。

新たなエンタメ空間になる車もいずれはWeb3の影響下に入り、やはりクリエーターをどれだけ引き寄せられるかで、車を売る側が手にする付加価値が左右される。ソニーでいえば、高性能の画像センサーもコンテンツづくりのコミュニティーも車というハードへの参入も、クリエーターを引き寄せ、つなぎとめる手段の一部だということだろう。

 

 

 

Web3に詳しい大阪大学の栄藤稔教授はソニーやソニー・ホンダのような役割を「(演出家や芸能プロダクションのような)プロデューサー」と呼ぶ。顧客が集まるのはクリエーターの生み出すコンテンツ。プラットフォームに人を集めるというより、「顧客を集めるクリエーターを育て、大きくしていく」という図式で成長ストーリーを描く企業だ。

もちろん、メタバースはWeb2の枠内でも始まっている。米メタの仮想空間サービスがそうであり、ゲームやアバター会議、仮想旅行で頭角を現すスタートアップ企業も少なくない。

だが、地殻変動は確実に進む。先だって来日した米IT評論家のケヴィン・ケリー氏(米IT情報誌「ワイヤード」の創刊時編集長)は「Web2もWeb3も当面はネット上で共存するが、既存企業と一線を画すサードパーティー(第三者)や個人、新興企業が力を増していくことに変わりはない」と日本経済新聞とのインタビューで見通した。

その時GAFAMがどうなるかといえば、「Web3が勢力を増せば、それだけWeb2のプラットフォームが重いレガシー(遺物)になる」(ケリー氏)とみられる。強者ほど時代の変化にカジを切りにくい「イノベーション(技術革新)のジレンマ」がGAFAMを襲う可能性もある。

 

 

 

自動車も似ていよう。「米国の国益」といわれ、世界最大のメーカーだったゼネラル・モーターズ(GM)を窮地に追い込んだのは「廉価と高燃費」で攻勢をかけたトヨタ自動車やホンダなど日本車メーカーだった。だが、時代は巡り、日本企業も今は内燃機関というレガシーを持たない米テスラや中国EVメーカーから猛烈な挑戦を受ける立場に身を置く。

英歴史学者のニーアル・ファーガソン氏は著書「スクエア・アンド・タワー」で「政治も経済も水平的組織と垂直的(中央集権)組織が交互に覇権を握ってきたのが世界史だ」と書く。

ネットの世界でいえば、商用化が始まって以降のWeb1が、無数の接続業者と検索エンジンが勃興した水平型の時代だ。その淘汰が進み、GAFAMに収れんしていったWeb2が垂直型の時代。さらにGAFAMの影響力をそごうと動き出したWeb3が再び水平型の時代ということになる。

GAFAMはそう簡単にはなくならないだろう。だが、Web3時代の到来は覇権の流動化をもたらし、まだ見ぬ新興勢力にチャンスを与えるはずだ。もちろん日本の企業にも飛躍の扉は大きく開かれている。SNS(交流サイト)や電子商取引などに象徴される現在のWeb2は、GAFAMに代表されるプラットフォーマーが情報を吸い上げ、利益を上げてさらに巨大化する経営モデルの呼称だった。中央集権型とも呼ばれている。