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住宅ペアローンにリスクも 資金拡大/互いに返済義務

こう話すのはファイナンシャルプランナー(FP)として東京都内で住宅ローンのコンサルティングをする有田美津子氏だ。新たに自宅を購入する相談に来る30代前後の夫婦は、共働きが前提で家計の支出を折半している世帯が多いという。そうした世帯は住宅ローンも「半分ずつペアローンを借りるケースが圧倒的に多い」。

 

共働き世帯が増える中、夫婦がそれぞれ住宅ローンを借りる「ペアローン」の利用者が増えている。三菱UFJ銀行は「ペアローンの取扱件数は増加傾向が続き、足元で2割程度を占める。物件価格の上昇の影響もある」(デジタルサービス推進部)という。1人で借りるより借入額を増やせるなど利点がある一方、離婚時にもめやすいなどリスクもある。しくみをよく理解して検討したい。

ペアローンは一つの物件に対して夫婦が同じ金融機関で1本ずつローンを借りる。お互い、相手の債務の連帯保証人にもなる場合が多い。物件の所有権は資金負担割合と同じ持ち分割合で共有名義になる。ローンが2本になるため、金利タイプなどの借り入れ条件はそれぞれ設定できる。例えば総額5000万円借りるなら、1人が固定型で期間35年・3000万円、もう1人が変動型で20年・2000万円を借りるといった具合だ。

ペアローンの利点の一つは借入額を増やせることだ。三井住友信託銀行が設置する「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」が1月に実施した調査で、単独ローンとペアローンで借入額(中央値)を比べると、20代は5割程度、30代は2割ほど、ペアローンの借入額が単独ローンより多かった。

物件価格が上昇する中、夫婦でローンを借りれば高額物件にも手が届きやすい。夫婦で借りる方法には、1人が契約者となる主債務者、もう1人が連帯保証人や連帯債務者となり2人で1本のローンを借りる「収入合算」もある。ただ片方が連帯保証人となる場合は、審査上、連帯保証人の収入を全額は合算しない銀行もある。一方、連帯債務者となる場合やペアローンは2人の収入全額を合算できるため、より多く借りられる。

税制上の利点もある。年末の住宅ローン残高の0.7%を所得税などから最長13年差し引く住宅ローン控除が2人分使える。自宅の売却時は売却益のうち3000万円まで非課税になる「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」がある。ペアローンは土地・家屋が原則、夫婦の共有名義のため、これも条件を満たせば夫婦ともに適用され、最大6000万円まで譲渡所得が非課税になる。もし将来、売却時に大きく値上がりすれば利点になる。

一方、リスクもある。公認会計士で住宅ローンのコンサルティングもする中村岳広氏は「自分の債務に加え相手の債務の返済責任も負う点を理解しておきたい」と話す。連帯保証人は実質的に債務者と同じ返済責任を負う。もしも収入減などで相手の返済が行き詰まれば、自分のローン返済を続けながら相手の債務も返済する義務がある。

このため借りすぎに注意し、世帯収支が将来変わる可能性も考慮したい。例えば新婚世帯などは子どもが産まれると育児休業や短時間勤務などで片方の収入が減ることも計算に入れておくべきだ。

片方の死亡などの万が一の備えも考えたい。ペアローンでは債務者の死亡時などにローン残高が保険金で返済される団体信用生命保険(団信)に2人それぞれが加入する。だが、団信で返済されるのは死亡などになった方の債務だけで、もう片方の債務は残る。団信とは別に、お互いに生命保険の死亡保障を用意しておくなどの手当てを検討するのも一案だろう。

離婚も大きなリスクだ。統計上、離婚は同居期間5年未満が最も多い。家を片方の所有に変える場合、ローンも単独の債務に変更する必要がある。ただ、自宅の購入後数年での離婚なら残債も多くなる。NPO法人、住宅ローン問題支援ネット(東京・港)の高橋愛子代表理事は「ペアローンの場合、繰り上げ返済などをしなければローンの債務者を1人に変えるのを金融機関が認めないケースがほとんど」と話す。

物件の売却による返済も選択肢になるが、ローン残高を下回る価格でしか売れず残債分を補填できないと、離婚後も返済が続き協議が難航しやすい。夫婦仲良く働き続けることがペアローンの前提だ。

(川本和佳英)