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事実婚、税・相続で不利に 遺族年金・家族割引は対象

法律上の結婚をするとしばしば「配偶者」「家族」と扱われ、税制や社会保障でメリットがある。それでは男女のカップルが事実婚を選んだ場合には同様に扱われるのだろうか。

 

事実婚とは一般に婚姻届を出していないが、結婚の意思があり夫婦同然に共同生活の実態がある状態を指す。内縁関係と呼ばれることもある。内閣府などの調査によると、30~50代の男女では、年代を問わず事実婚をしている人が2~3%ほどいる。「仕事の都合で姓を変えたくないなどの理由で事実婚を選択する人は近年増えているようだ」と大妻女子大学の阪井裕一郎准教授は話す。

法律婚に比べ事実婚は根拠が曖昧で、制度上、夫婦とみなされるケースは少ないとの印象を持つ人は多いかもしれない。だが、自身が事実婚というファイナンシャルプランナーの前野彩氏は「事実婚だから不便だと感じたことはない」と話す。理由の一つが「家族」や「配偶者」を対象とする制度で、不利になるケースが少ないためという。

 

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例えば金融機関が提供する商品やサービスでは、事実婚も法律婚と同様に扱うことが多い。生命保険会社では死亡保険金の受取人を「原則として被保険者の戸籍上の配偶者と2親等以内の血族」とするのが基本。だが、事実婚のパートナーも受取人として認める会社は少なくない。自動車保険でも「本人・配偶者限定」といった割引の対象になる。夫婦2人で住宅ローンを借りるペアローンや通信会社が提供する「家族割引」も使えることが多い。

ただし事実婚の人が配偶者や家族としての契約をする場合には、2人の関係を証明する「証拠」を求められる。証拠となるものは制度やサービスで異なるが、大抵のケースで有効なものの一つが住民票だ。自治体の窓口などで申請すれば、婚姻届を出していなくても住民票の続柄に「夫(未届)」もしくは「妻(未届)」と記載できる。東京海上日動あんしん生命保険では事実婚のパートナーを保険金受取人とする場合、住民票で3年以上の同居の事実があることなどを確認するという。

社会保険労務士の望月厚子氏は「事実婚の契約書を作成する方法もある」と話す。(1)婚姻の意思(2)生計を同一にすること(3)子どもが生まれたら共同で養育すること(4)不貞行為があった際の慰謝料(5)関係解消時の財産分与――などを記した公正証書を作成。事実婚の証拠を求められたときに提出する。結婚式や親族で集まったときの写真、連名の郵便物なども証拠になる場合がある。

公的な医療保険(健康保険)も事実婚を法律婚と同様に扱う。会社員などが加入する健康保険では通常、年収が130万円未満といった要件を満たすと、配偶者は「被扶養者」となり、保険料を払わずに済む。事実婚でも条件を満たせば被扶養者となれる。法律で「届け出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を配偶者に含むと定めているためだ。

法律婚の場合は勤め先に結婚の事実を報告すれば特段の手間はかからないことが多い。だが、事実婚ではパートナーが加入する健康保険組合などから2人の関係を示す証拠を求められる場合がある。勤め先によっては事実婚を法律婚と同様に扱い、手当や福利厚生の対象にする場合もあるので確認したい。

公的年金も事実婚に対応する。法律で事実婚を法律婚同様に扱うと定めており、パートナーが亡くなった場合には遺族年金を受け取れる。パートナーが会社員や公務員の場合、収入が少ないなどの条件を満たすと第3号被保険者にもなれる。

年金関連の手続きでもパートナーとの生計維持関係を証明する書類を提出する。また、パートナーが亡くなり遺族年金を受給している人が別の人と法律婚や事実婚関係になると受給権を失う。手続きを怠ると「不正受給」になる可能性がある。

 

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一方で税金の扱いは事実婚と法律婚で明確に差がある。例えば一定以下の所得金額の配偶者がいる人の所得税を軽くする、配偶者控除や配偶者特別控除は事実婚では認められない。税法では配偶者について定義しておらず、婚姻届を出していなければ配偶者と認めない、民法の規定を借用するためだ。

相続はさらに厳しい。法律婚の場合、配偶者は自動的に法定相続人となり、財産の一定割合を取得できる遺留分もある。だが、事実婚ではパートナーの法定相続人にはなれず遺留分もない。財産を引き継ぐには、互いに遺言書を作成したり、生命保険を活用したりといった対策をする必要がある。「何も手を打たないと、財産を一切引き継げないこともある」と税理士の服部誠氏は指摘する。

遺言により遺産をパートナーに渡すことができても相続税で不利になることがある。法律婚と異なり、配偶者向けの優遇制度が使えないためだ。例えば財産6000万円を配偶者のみが相続すると、法律婚では配偶者向け税額軽減により相続税額はゼロにできる。

事実婚では配偶者向けの税額軽減措置が使えないほか、「被相続人の1親等の血族」でないため、相続税額が2割加算されてしまう。「この場合の相続税は単純計算で480万円になる。残念ながら現在の法律の下では事実婚に税制面のメリットはない」と税理士の服部氏は話している。