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NTT、さらば「GAFA予備校」 人材流出阻止へ人事改革 ビッグBiz解剖㊤

約30万人の従業員を抱える日本最大級の会社、NTTが攻めの働き方・人事改革に取り組んでいる。飛行機通勤を含むリモートワークを認め、年功序列を廃止して20代でも管理職に就けるようにする。米グーグルなど巨大IT「GAFA」への人材流出が続き、存在感低下は日本経済の低迷と重なる。人事に精通した島田明社長の下で、グローバルでの復権に向けた土台作りを急ぐ。

「この前はグーグル、今度はアマゾンか」。NTTグループのある管理職社員は頭を抱えた。1年で約30人、退職面談をした。技術者としての基礎を学んだ後に「GAFA」に代表される海外IT大手へ転職していく。「GAFA予備校」――。NTTはネットでそう揶揄(やゆ)される。

通信の主役が電話からインターネットに代わって久しい。スマートフォンのアプリやクラウドサービスが莫大な富を生み出すようになった。1990年代に入りバブルが崩壊するまで、NTTの時価総額は世界トップだったが今や120位(9月末時点)に沈み、代わりにGAFAが君臨する。グーグルの親会社、米アルファベットの時価総額は約1兆2500億ドル(約180兆円)とNTTの約13倍だ。

人材の流出は変化に取り残された結果だ。あるNTTのOBは「GAFAだけではなく、日本勢との人材獲得競争すら危うい」と嘆く。

「社員が働き方を自分で選ぶ時代に変わった」。人事・労務畑が長い島田社長は危機感を募らせる。6月の社長就任会見で「社員一人ひとりがわくわくして働けるようにするのが私の使命」と語り、働き方・人事改革を一気に加速させた。

10月5日、午前7時30分。NTTコミュニケーションズの技術戦略部門担当課長の斉藤基樹さん(50)は、北海道の新千歳空港を飛び立った。2カ月に1回、始発の飛行機で東京都内の職場へ出社する。スタートアップの発掘などビジネスの種を探し出すのが仕事だ。

普段の「オフィス」は実家の6畳間。故郷の北海道にUターンした1年半前は周囲から「変わり者」と見られた。今では他部署からも相談される働き方のモデルケースとなった。

NTTは2021年9月、グループ全体で転勤や単身赴任をなくす方針を表明。22年7月には主要会社の従業員の半分に当たる3万人を対象に、居住地を国内なら原則自由とする勤務制度を導入した。都市部に単身赴任していた1500人のうち13%にあたる200人がテレワークで地元に帰った。

人事制度にも抜本的なメスを入れる。23年4月から20代でも課長級の役職に抜てき可能な制度を始める。主要グループ会社の約6万5千人を対象とし、将来は国内グループ全体に広げていく。初任給アップなど賃金制度の見直しも検討する。

島田社長は働き方を見直し、年功序列を排して評価制度を変えることで、組織に活力を取り戻すことを目指す。パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「NTTのような伝統的大企業が変わるインパクトは大きい」と国内産業全体への影響に注目する。

ただ、こうした働き方・人事改革がNTTの成長にどこまで寄与するかは未知数だ。新型コロナウイルス禍が収束に向かい、グーグルなどではオフィス回帰の動きがある。イノベーションには対面での交流が不可欠と考えるからだ。NTTの改革は、人材を引き留められなくなった弱さゆえの施策との見方もできる。

変革に苦戦する通信会社には先例がある。米AT&Tだ。18年に米大手タイムワーナー(現ワーナー・ブラザース・ディスカバリー)を約850億ドルで買収し、非通信事業に活路を見いだそうとした。だが米ネットフリックスなど動画配信大手との競争で苦戦し、22年4月に同業のディスカバリーと経営統合させた。

AT&Tの変革を遅らせている要因の一つが人材難だ。通信インフラの構築を支えてきた従業員は、クラウドや人工知能(AI)といったネットサービスに必要なスキルが乏しい。13年から20年までに10億ドルを投じて従業員10万人の再訓練プログラムを実施したが、売上高はほぼ横ばい。時価総額の世界ランキングでは、NTTと同様に100位近くで低迷する。

AT&Tの苦境はNTTの変革の難しさを示唆する。通信インフラはこれまで安定的な収益をもたらしてきた。それゆえ公社時代から続く保守的な社風は「官僚以上に官僚的な組織」(業界関係者)とも言われる。安定志向の強いグループ30万人を擁する巨大組織を変えるのは容易ではない。

ネット時代にGAFAのような巨大IT企業が育っていない日本では、NTTがITを中心とした技術系人材を年数千人規模で採用し続け、その数は国内最大級だ。

今も大卒の就職先としてNTTグループは人気がある。就活掲示板「楽天みん就」の調査では、23年卒の就職人気企業1位はNTTデータだ。だが、活躍の場を与えられなければ人材の流出は止まらない。

自民党の前情報通信戦略調査会長で元総務相の佐藤勉氏は「GAFAと渡り合える可能性があるのは国内ではNTTしかいない」と話す。NTTには大量に抱え込んだ人材を生かす責任がある。

NTTの凋落(ちょうらく)は日本経済が世界での輝きを失った「失われた30年」と重なる。NTTの逆襲は、日本が再び先端産業で輝けるかどうかの試金石でもある。