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沖縄、高級リゾートへ脱皮なるか インバウンド本格再開

新型コロナウイルス禍前の2019年、沖縄県のインバウンド(訪日外国人)客は10年前の10倍超に増え、人気観光地として注目度を高めた。一方、単価が伸び悩み客数ほど収益が上がらない構造問題もあった。「数」だけに頼らない新たなビジネスモデル構築に向け、沖縄の観光業は岐路を迎えている。

手つかずの原生林が広がる沖縄本島北部の世界遺産「やんばる」の森。公的機関の許可を得たガイドだけが案内できる特別なエリアへとカヤックで進んだ先に待つのは、沢登りや天然のウオータースライダーなど冒険の数々――。

米フォーブス・トラベルガイドのホテル格付けで最高峰の五つ星を獲得したハレクラニ沖縄(恩納村)は自然を満喫できる独自のアクティビティープランを打ち出している。特に海外客からの問い合わせが多いという。価格は1人2~3万円台だが、市川明宏副総支配人は「土地独特の非日常的な体験へのニーズが強い」と話す。

こうした体験重視の旅行形態は「アドベンチャーツーリズム」と呼ばれ、欧米を中心に広がる。「アクティビティー」「自然」「文化体験」のうち2つ以上の体験を組み合わせた旅を指し、環境意識の高い高所得層の利用が多い。滞在期間が長く、地域経済への波及効果も大きい。

やんばる地域にある国頭村観光協会の比嘉明男会長は「地元側が提供する体験プランを増やすことで、地域経済への果実が大きくなる」と説く。

那覇空港では香港と台湾からの定期旅客便が再開した(16日)

ザ・リッツ・カールトン沖縄(名護市)もやんばるの魅力を体験できるツアーを拡充している。足元のホテル売り上げは過去最高の水準で推移しているといい、佐々木孝司総支配人は「価格を維持したうえで、体験価値の高い旅を求める顧客に選んでもらえている」と自信を示す。

インバウンド受け入れ再開に沖縄経済界の期待は大きいが、手放しで喜べるわけではない。沖縄観光コンベンションビューローは訪日客数について、10月は1800人、11月は1万人と見通す。コロナ禍前への回復には程遠い。

コロナ禍前の19年、査証(ビザ)発給要件の緩和などを背景に沖縄を訪れたインバウンド客は293万人と09年の13倍に伸び、国内客も含めた観光客数1016万人のうち29%を占めた。

ただ、観光庁の調査によると沖縄の19年の訪日客1人当たり旅行支出は9万7千円。北海道、東京都に次いで3番目に高いものの、トップの北海道とは2万4千円の開きがある。

さらに差が開くのは海外リゾートとの比較だ。沖縄と同じ島しょエリアの米ハワイは19年の為替レートで20万円ほど(米国内客含む)。滞在期間も沖縄(空路客)の4日強に対し、ハワイは9日弱と倍以上長い。

沖縄はアジア各国からの近さと手ごろに楽しめるリーズナブルさがインバウンド増加に寄与してきた。沖縄県の19年度調査では沖縄の訪日客のうち年収600万円以上の割合は28%にとどまった。単純比較はできないが、観光庁調査では全国の訪日客のうち年収500万円以上が回答者の54%に上った。

滞在期間が短いクルーズ船客の増加も、飲食や土産品など数に頼るビジネスモデルに拍車をかけた。19年の沖縄の訪日客の4割超は海路での入国者。那覇市では繁華街「国際通り」で買い物をしてすぐに次の目的地へ向かうケースが目立った。陸路がなく他の都道府県への周遊が相対的に少ない沖縄では、域内の消費額を増やす余地は大きい。

香港―那覇の再開第一便で沖縄を訪れ、歓迎を受ける香港からの観光客(16日、那覇空港)

「日本の水際対策緩和を待ち望んでいた。ダイビングが楽しみだ」。16日、2年7カ月ぶりに再開した格安航空会社(LCC)、香港エクスプレス便で香港から家族3人で来日した男性(33)は笑顔で語った。ダイビングのほか水族館や市内観光、飲食を楽しむ定番コースだという。

今後の沖縄観光のあり方について日本アドベンチャーツーリズム協議会(東京・品川)の理事を務める東洋大の森下晶美教授は「ビーチを中心にマス市場を狙えるエリアと、自然や文化を売りにして地域側が観光客を選ぶエリアをすみ分けしていくことが沖縄全体の観光収入の引き上げにつながる」と指摘する。(児玉章吾)