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チームラボ代表・猪子寿之さん 4世代同居でも不干渉 それでも親子

――4世代の家庭で育ったそうですね。

「両親と祖父母、曽祖母と僕の6人家族です。父と祖父が歯科医で医院と自宅を兼ねた家に住んでいました。祖母は厳格なクリスチャンで母は仏教徒です。父と祖父は仕事一筋の職人。みんなバラバラな考え方です。例えば、父がテレビで進化論の番組を見ていると、祖母が邪魔するようにミシンを踏む。うるさいので父はテレビの音量を上げる。そんな感じです」

――文句は言わないのですか。

「言わない。祖母は何でも手作りをしてよく甘いケーキを焼いてくれました。父は『砂糖は歯に悪い』と僕に言う。でも祖母に文句は言わないですね。小学校の臨海学校の時は祖母がリュックに聖書を入れ、母はお守りとして写経を入れました。お互い文句は言わず、干渉はしない」

――どう思っていました。

「人は違うんだなと思っていました。自由でいいんだと。逆に驚いたのが学校です。小学校は冬でも半ズボンの制服でした。両親は『冬に半ズボンでは寒い』と長ズボンの体操服を僕に着せました。すると先生は怒ったのです。僕はとても驚きました。だって先生は長ズボンをはいている。『ああ、こんな変な人もいるんだな』と思いましたね」

――ご家族はお互いを理解していたんですね。

「いいえ、逆です。相互理解なんてそもそもできないし必要ない。人間はみんな違うし多様です。でも、歯科医院という共同体を運営することには協力していましたよ。家族がお互いに理解できるなんて幻想ですよ。寛容というのは相互理解ではなくて、理解できない相手を理解できないまま許すことだと思います」

――アートの世界への興味はどう膨らんだのですか。

「人間が世界をどう認知しているのかを知りたかったんです。家族の認知の仕方がバラバラだったので、いったい真理は何なのかと思いました。人間は認知できる世界だけを見ている。時代や地域によって世界の見え方が違う。人間は美意識で行動するので、アートは世界の認知の仕方を変えると思うんです」

――チームラボの作品はボーダーレスがテーマですね。

「人間は放っておくと、ないはずの境界を認知のバイアスで作っていきます。国境のようにいつの間にか境界が当たり前になってしまう。分断が激しくなり争いが増えれば、世界は破壊されていきます。でも、実はすべて連続しているとわかったとき、世界を肯定できるのではないかと思います」

「この夏、大阪市の長居植物園に、鳥が飛ぶことで空気が動き彫刻の壁面の光の渦が変化する作品をつくりました。見る人の意識が連続する環境そのものにまで広がってほしいと思って。アートは分断せずに世界を理解する行為です。多様な違いを認めて世界を認知する。そんな考え方を育む空間が、徳島の我が家にはあったのかもしれません」

(聞き手は大久保潤)