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米留学、インドが中国逆転 22年度のビザ発給首位 米中の緊張映す

米国で留学生の出身国が大きく変わってきた。中国人への学生ビザの発給数は2022年度(21年10月~22年9月)の7月までで前年同期と比べて3割減った一方、インドが6割増えた。中国を抜いてインドが首位になった。米中間の政治的な緊張の高まりを反映したほか、中国の「ゼロコロナ」政策も響いた。

 

米国の高校や大学で学ぶには「F1」と呼ぶ学生ビザが要る。米国務省によると、22年度に中国人に出したF1ビザは累計で約5万6000件にとどまり、前年同期の約8万件から減った。

急きょ母国に戻ったり留学先を米国以外に変えたりする中国人留学生は少なくない。ビザの発給数が足元の変化を映す。

6月、米東部メリーランド州の大学に留学していた中国人男性(23)は故郷の重慶市に戻った。心理学を学ぶために米大学院に進むことも考えたが「米中間で軍事的な動きがあれば、家族のもとに帰れなくなる。難しい決断だった」と話す。

一方、インドは約10万件となり、中国を逆転した。21年度はインドで新型コロナウイルスが大流行し、各国がインドからの入国者を制限した。22年度はその反動で増えた面もあるが、「中印逆転」は一時的な現象ではなさそうだ。

F1ビザに占める中国人の比率は15年度には43%だったが、21年度に25%まで落ち、22年度は約2割まで下がる見通しだ。一方、インド人の比率は15年度の12%から21年度には22%まで上昇し、22年度には約3割まで高まるとみられる。

「中印逆転」は20年度も僅差で起きたが、このときは新型コロナの流行直後でF1ビザの発給総数も例年の3分の1に絞った特殊要因があった。22年度はビザの発給総数は例年並みだが、インドが首位となるのは確実だ。

非政府組織(NGO)カーター・センターの中国研究者リュー・ヤーウェイ氏は、中国人留学生の減少について「トランプ前政権の誕生を契機に米中関係が悪化したためだ」と説明する。「米国内でアジア人を対象にしたヘイトクライム(憎悪犯罪)が多発しており、(本人や親族の間で)安全面を懸念して留学に消極的な声が広がっている」という。

米中間の相互理解を促す活動に取り組む米中パーセプション・モニターが21年9月に約3400人の中国人を対象に調べたところ、米国を「非常に好ましくない」「好ましくない」と答えた25~34歳の割合は64%にのぼった。65歳以上の比率(57%)を上回り、高齢層よりも若年層で反米感情が高まっている。

米当局が技術移転を狙った中国のスパイ活動の取り締まりを強め、中国人留学生に厳しい視線を注ぐようになった影響も大きい。中国では習近平(シー・ジンピン)指導部がゼロコロナ政策で入国時の厳しい隔離措置を取っており、多くの学生にとって出国のハードルは高くなっている。

中国では多くの共産党高官や富裕層が子弟を米国に留学させてきた。人脈づくりや就職に有利だったからだ。習指導部は内向きの政策を相次いで打ち出しており、最近は「中国の高等教育機関で学んだ方が就職などでも有利」との指摘がある。

米国の大学にとって中国人学生の減少は運営の打撃になる。留学生が納める学費や寮費は無視できない収入だ。

国際教育者協会(NAFSA)は20年、19~20年度に米国に留学した学生数が減少したことは米国経済にとって18億ドル(約2600億円)の損失となったと報告した。多数を占めていた中国人留学生の減少をうけて、各大学でインドや他国からの留学生の呼び込みが活発になる可能性がある。

米国に留学する中国人が減少すれば、米中間の学術交流も細る公算が大きい。ハイテク産業で進む米中間のデカップリング(分断)が学術界にも波及しそうだ。