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個人の円ドル取引、9月は初の1000兆円超 円安を増幅

銀行間の通貨取引に匹敵する水準となる。円安・ドル高の進展に加え、日米金利差の拡大による金利差収入が増加しているためだ。従来「逆張り」に動きやすい個人が「順張り」で円売り・ドル買いを続ける要因にもなり、円安の流れを増幅させている。

金融先物取引業協会が17日発表した9月の店頭FX49社の売買動向によると、円・ドル取引の売買高は1098兆円と、これまで最大だった今年6月の955兆円を上回った。前年同月比では3.6倍に増えた。4~9月は前年同期比2.8倍の5162兆円だった。他の通貨ペアを含めた9月の全体の売買高は1398兆円と過去最大となった。

9月の個人の売買高は1日当たりに換算すると約60兆円に達する。国際決済銀行(BIS)によると、銀行間取引による日本の外国為替市場の1営業日あたりの平均取引高は19年4月時点で約3700億ドル(約55兆円)。銀行間取引と、個人のFX取引額がほぼ同額になった格好だ。

FX取引は銀行間取引に基づく為替市場に影響する。店頭FX取引は個人とFX会社の相対取引になる。例えば個人が円売り・ドル買いのポジションを構築すると、FX会社はその個人に対して反対の円買い・ドル売りのポジションを抱える。このままではFX会社は自らの為替リスクが膨らむため、銀行などに対して顧客と同じ円売り・ドル買いのポジションを作る「カバー取引」を実施し、為替リスクを解消する。この取引が銀行間の為替市場に出てくるため、個人の円売りは円安圧力となる。

個人の円売りが膨らんだのは、急速な円安・ドル高が進み出した3月以降だ。利上げを始めた米連邦準備理事会(FRB)と、大規模な金融緩和を続ける日銀という構図から、円安・ドル高の方向感が強まった。「中長期目線で円売り・ドル買いを手掛ける個人には非常にやりやすい相場だった」(岡三証券の武部力也氏)

日米金利差の拡大で「スワップポイント」と呼ぶ売買する通貨の金利差による収入が増えている影響も大きい。米国の金利が日本より高いため、ドルを買って翌日まで持ち越せば収入を得られる。円売り・ドル買い建玉(未決済残高)を1日持ち越した場合の1万ドル当たりのスワップポイントは3月の10~20円程度から足元では100円超に膨らんでいる。

従来、円安が加速すると個人は反発を見込み、逆張りの円買い・ドル売りが広がったが、足元でその動きは乏しい。「依然としてドルの先高観が鮮明」(外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏)なことに加え、ドルを売ればスワップポイントの支払いが必要となるため、逆張りの円買い・ドル売りが出にくい。

QUICKが17日に発表した前週末時点の店頭FX5社のポジション動向では、円買い・ドル売りの建玉が半年ぶりに円売り・ドル買いを上回った。前週末14日に1ドル=148円台後半と32年ぶりの円安水準まで進み、利益確定が広がったためだ。ただ「円高になったタイミングで再びドルを買う動きは強まるだろう」(マネーパートナーズの武市佳史氏)と、個人のドル買い目線は崩れていない。

日本のFX投資家が「ミセス・ワタナベ」と呼ばれ、存在感を高めたのは2007年ごろ。一般の主婦まで取引するほど活発化し、当時の渡辺博史財務官(現国際通貨研究所理事長)と比べ、「財務官よりも相場に対する影響力を持つ存在」として注目された。足元では神田真人財務官らが主導する介入に逆らうように活発に円売りを手掛けるミセス・ワタナベ。政府・日銀が為替相場を制御することの難しさを示しているともいえる。(佐伯遼、犬嶋瑛)