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【社説】もっと使えるマイナンバーカードに

政府が2年後をメドにマイナンバーカードの取得を実質的に必須とする方針を打ち出した。2024年秋に現在の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードへの一本化を目指すという。普及を加速させる切り札といえ、妥当だ。今後はもっと使えるシステムにすることに全力を挙げたい。

カードの交付開始から6年がたち、普及率は5割ほどだ。マイナポイントの付与で取得を促してきたが、あまねく行き渡らせるには限界がある。政府システムを刷新する25年度までの普及に事実上の取得義務化もやむをえない。

総務省は地方交付税の算定で自治体のカード普及率を加味する。普及率が高い市町村は使い勝手を上げるため、カード活用事業を増やす傾向にある。こうした自治体を後押しするのは望ましい。

企業がカードの本人確認システムを使う場合の利用料を当面無料にするのも、利用を促す観点から評価できる。運転免許証との一本化やスマホへの機能搭載にとどまらず、もっとできることはないか不断の検討を進めるべきだ。

そもそもカードの普及は手段にすぎない。マイナンバーなどによる情報連携を深め、政府の効率化や政策の高度化、成長につながる新たな価値の創造に結びつけることがデジタル社会の姿である。

行政デジタル化は、低所得層の支援に大きなメリットがあることをもっと強調してよい。給付付き税額控除など、所得と給付対象の情報を連携させる制度を導入すれば、プッシュ型支援できめ細かな福祉を展開しやすくなる。

その大前提が、行政や業界の慣習、法制度をデジタルに適した形に変革することにあるのは言うまでもない。保険証とマイナンバーカードの一本化は、医療・保健情報を患者と医療機関が共有するデータへルス改革の要である。

患者は過去に処方された薬や健康診断の情報をマイナポータルでいつでも確認可能で、受診した医療機関や調剤薬局にこれらの情報を提供できる。正確なデータに基づく診察で医療の質が向上し、重複処方を防いで医療費を抑える効果も期待できよう。

導入した医療機関はまだ一部にとどまるが、厚生労働省はシステム対応を後押しし、23年4月以降は全国の保険医療機関に対応を原則として義務付ける方針だ。新たな仕組みに戸惑う高齢者や医療機関の支援にも目を配りたい。