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円安、家計・企業に痛み 生活費、年8万円上昇も 内需型企業は半数で損益悪化

円相場が32年ぶりに1ドル=148円台まで下落し、家計や企業は一段と重い負担を強いられることになる。今の円安水準が続くと、輸入物価の上昇などで生活費は昨年度よりも年間8万円高まるとの試算がある。仕入れコストが増える内需企業はすでに半数で損益が悪化した。企業や家計の逼迫は、設備投資や個人消費の鈍化を通じて景気回復への逆風となりかねない。

円相場は14日、1990年以来32年ぶりに1ドル=148円台に下落した。急速なペースで利上げを進める米国と金融緩和を続ける日本で金利差が広がり、金利の低い円を売ってドルを買う動きが強まっている。年初からの下落幅は30円を超え、底の見えにくい展開となっている。

日本は多くのエネルギーや品物を海外から輸入している。決済には世界の基軸通貨である米ドルが使われることが多いため、円安・ドル高は幅広い商品の輸入コストの増加につながる。

コストが増えた企業はその一部を価格に上乗せして消費者に転嫁する。消費者の支払いが増えるため、家計には逆風となりやすい。

みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介氏の試算によると、円相場が145円程度の水準を維持し続けた場合、2022年度の世帯(2人以上)支出額は全体の平均で21年度に比べて8万1674円増える。これは政府の輸入小麦の価格抑制策などを反映させており、それがなければ10万円以上負担が増える計算になる。

特に食料品とエネルギーの値上がりの影響が大きい。食料品は3万9030円、エネルギーは3万3893円の負担増になる。ロシアのウクライナ侵攻後、小麦など食料や、原油など資源の価格に上昇圧力がかかっており、そこに円安が追い打ちをかけている。

みずほリサーチによると、仮に円相場が150円で推移すれば支出額の増加分は8万6462円まで膨らむ。いずれのケースでも「所得に占める生活必需品への支出が大きい低所得層ほど負担感は重い」(みずほリサーチの酒井氏)という。

内需企業は原材料などを海外から輸入するケースが多く、すでに収益の悪化に苦しむ例が出ている。日本経済新聞の集計によると、上場する内需型企業で22年4~6月期の営業損益が前年同期よりも悪化したのは約660社と、全体の5割超を占めた。

日本製紙は原燃料の高騰が響き、23年3月期通期も200億円の営業赤字になる見通し。1949年に前身の十条製紙が上場して以来、連結ベースで初の営業赤字となる。

リンガーハットも3~8月期は計画を下回り営業赤字に転落した。佐々野諸延社長兼最高経営責任者(CEO)は「円安によって我々の想定外のことが起きている」と話す。計画以上の食材コストの上昇を受け、23年2月期の通期予想も最終損益が4億5000万円の赤字と、黒字予想から一転赤字予想に転落した。

家庭の食卓に並ぶ食品などの値上げも本格化してきた。帝国データバンクによると、主要な食品会社は9月末時点で、10月に6699品目で値上げ(価格を据え置きながら内容量を減らす実質値上げを含む)に踏み切る計画だった。単月でみると今年最大で、22年通年の値上げ品目は2万を超える。

ただ、企業は上昇したコストのすべてを転嫁できるわけではない。値上げしても、売上数量が減って利益が減る場合もある。輸出の増加を通じて円安が国内経済に与えるメリットが過去に比べて小さくなるなか、企業が設備投資や賃上げに消極的になりかねない状況だ。日銀は賃上げを伴う安定的な物価上昇を目指して金融緩和を続けているが、副作用の円安がその実現を妨げかねない皮肉な状況になりつつある。

(中元大輔、村上徒紀郎、津兼大輝)