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「億り人」解体新書 荒れ相場に攻め、視線は海外・長期 投資家1000人調査(上)

「資産は減る一方だが、投資を始めたばかりでどうすればよいか分からない」。8月下旬に東京ビッグサイト(東京・江東)で開かれた「日経IR・個人投資家フェア」で、佐々木慎一さん(仮名、25)は不安げにこう漏らした。お目当ては著名個人投資家たちの講演だ。「ぜひ投資手法を参考にしたい」

金融資産が1億円を超える「億り人」は、佐々木さんら一般個人投資家の大目標だ。「保有していて不安な資産があれば減らし、本質的な株価を見極めてポートフォリオの新陳代謝を進める」。資産を一時10億円まで増やしたDAIBOUCHOUさんが登壇すると、佐々木さんは話に聞き入った。

円相場、1㌦=148円台後半に急落

一般の投資家が自らの運用に不安を感じ、誰かの考えを聞きたくなるのも無理はない。2022年の株式相場は世界的なインフレや利上げ、ロシアのウクライナ侵攻などに振り回され続けている。

直近では米消費者物価指数(CPI)が発表された13日、米国が大幅利上げを続けて日米金利差が拡大するとの見方から円相場は32年ぶりに1ドル=147円台後半に急落し、14日には148円台後半まで円安・ドル高が進んだ。米CPIの発表を受けてダウ工業株30種平均も13日、一時急落したが、売り一巡後は短期筋の買い戻しで急反発し、日中値幅が1500ドルを超える乱高下をみせた。

波乱相場を乗り切るため、スゴ腕の億り人の極意を参考にしたいが、投資手法やポリシーは各個人で異なる。日本全国に散らばる億り人全体の平均像を描き出すことはできないか。日経ヴェリタスは調査会社マクロミルとともに1億円以上の金融資産(実物不動産除く)を持つ500人の富裕層と500人の一般投資家の計1000人にアンケート調査を実施した。

見えてきたのは、波乱相場に動じず、果敢に投資を続ける億り人の姿だった。最大の特徴と言えそうなのは、保有資産に占める現預金の少なさ。平均的なポートフォリオを作ってみるとその違いは歴然だ。一般投資家が資産の52%を現預金で持つ一方で、億り人は31%しかない。

著名個人投資家のエルさんは「ポートフォリオに占める現預金は1%ほどだ」という。資産の大半は株式で、その7~8割は米国株だ。約30年の投資経験から「米国は各業種に世界的な大手があり、増配を続ける企業も多い」と話す。米IT(情報技術)株が下落しても現金化せず、コストコ・ホールセールなどの生活必需品関連の銘柄に資金を移している。

エルさんのように、億り人は海外資産への投資をためらわない。むしろ円安を好機とみて積極的に投資を増やしている。しかも、株式だけでなく長期保有を前提に海外の債券や不動産投資信託(REIT)にも触手を伸ばす。

情報武装を欠かさず、経済を先読み

リスクの高い資産に投資する億り人は「情報武装」を欠かさない。投資をする際に重要視する情報を聞くと、株価チャートや財務情報などはもちろん、国内外の経済指標や金融・財政政策まで、いずれも一般投資家よりも「重視する」と回答した割合が高かった。経済や市場全体の動きを先読みして行動する億り人の姿が浮かび上がる。

同じ億り人でも、性別や年代で投資対象や手法に違いがあることも分かった。たとえば20~30代の若き億り人たちは、暗号資産(仮想通貨)に投資する割合が27%と、全年代(12%)の2倍超にのぼる。億り人の27%が女性で、男性よりも果敢に投資に挑む姿が浮かび上がる。下落局面でも「新たな銘柄を買った」と43%の女性が回答し、男性の28%を大きく上回った。

投資家向け広報(IR)イベントに集まった個人投資家たち(東京・江東)

だが、年代や性別を問わず、共通の価値観もある。多くの億り人は「投資に成功する最低条件は相場から退場しないことだ」と口をそろえる。どんなに相場が荒れても前を向き続ける。また、意外にも実生活は質素で堅実だ。調査を通じて編み上げた「億り人・解体新書」のページをめくっていこう。

(吉田貴)