首都圏マンション、平均6260万円
不動産経済研究所(東京・新宿)によると、首都圏の新築マンション平均価格は21年で6260万円。バブル期の1990年(6123万円)を上回り、最高値を更新した。22年上半期も同6511万円と上昇が続いている。
全国ベースとなる国土交通省の不動産価格指数も確認すると、やはり足元のマンション価格は10年の水準に比べ8割前後も高い。
90年に中学生だった記者の記憶では、当時はとにかく不動産売買が活発で、あちこちで建築工事も行われていた。今の経済状況にそれほどの勢いは感じないが、なぜマンションはバブル期を上回るほど高いのか。
「マンション価格高騰の最大の要因は低金利だ」。不動産コンサルティングのさくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は話す。

マンションの購入時は住宅ローンを利用するのが普通。返済期間中に金利が変わる場合がある変動型なら、現在は最低年0.3%程度だ。元利均等方式で35年返済する場合、1億円のマンションなら毎月返済額は約25万円。しかしバブル期は同7%の金利もあり、同じ条件でみると毎月の負担は64万円弱に膨らむ。
バブル期4000万円台、今なら億ション買える
毎月負担でこれだけ差があれば、所得が増えていなくても高額物件を検討する人は増えるかもしれない。ということは、今の金利で「億ション」を買える人も、高金利のバブル期には4000万円台の物件にしか手が出なかったとも考えられる。
実際、ここ数年の変動型金利の平均と、マンション価格(不動産価格指数)の推移を比べてみると、金利が下がるほど価格が上がるという図式がはっきり表れていた。

金利の影響の大きさをつかんで納得しかけた。しかしよく考えると、住宅はマンションだけではない。戸建てはどうなのか。不動産価格指数で戸建て価格をみると、10年に比べて直近は15%前後の上昇だ。高くはなっているが、マンションに比べれば小幅だ。新型コロナウイルス禍を機に広がった在宅勤務の影響から、マンションより広い戸建ての人気も上がっているはずなのにどうしてだろう。
「駅近」立地に戸建ては建たない
不動産市場に詳しいコンドミニアム・アセットマネジメント(同・中央)の渕ノ上弘和代表に聞くと、「最近の住宅購入者はバブル期より立地に対する条件を重視する。その条件は戸建てよりマンションの方が満たしやすい」と教えてくれた。
バブル期は不動産の値上がり期待が地方や郊外でも大きく、鉄道の駅から離れた不便な住宅でも積極的に購入する人がいた。だが現在は東京都23区などの都心や、地方都市でも主要駅にごく近い立地にこだわる傾向が強い。

在宅勤務への対応についても「高額物件を買う人ほど、郊外の戸建てへ流れていない」(渕ノ上氏)。共用ワークスペースがある都心マンションを選んだり、仕事用に別の拠点を構えたりするからだという。
確かに駅前などの好立地に戸建ては簡単には建てられないが、マンションは再開発などで都心部に立地する大型物件も目立つ。特に新築は、そもそも建てられる場所がバブル期とは様変わりしている面もある。不動産経済研究所の松田忠司・上席主任研究員は「同じ首都圏でも、マンション供給の『量』はバブル期なら神奈川や埼玉が中心だったが、今は23区が最多」と話す。
東京都心などでマンションを建てるには用地取得などにお金がかかる。こうしたことから「近年は次第に新築を分譲するマンション会社は大手中心に集約が進んだ」(松田氏)。経営体力がある大手は、マンションを値下げして売り急ぐ必要は少ないので、高価格がより維持されやすくなる面がある。
好調市場も「低金利頼み」
マンションの高騰に続き、今年9月に発表された基準地価で住宅地は31年ぶりに上昇した。ただ、今後バブル期のように全国的に住宅価格が上がっていく雰囲気は乏しい。
さくら事務所の長嶋氏は「そもそも住宅購入の中心である30~40代の世帯が激減している。買う人が限られるから、好調に見えるマンション市場も実は『低金利が頼みの綱』という構図が続く」と先を見通す。
「バブル超え」という一見すると景気の良い数字。それを支える土台はバブル期とは異なる脆弱さも抱えている。
タワマンは存在しなかった

もっとも、最近はその特殊な構造のため修繕費用が通常より高くついたり、所有者数が多すぎて決議がまとまりにくかったりという弊害も目立ち始めた。バブル崩壊から30年余。今から30年後の未来、そびえ立つ巨塔を人はどのように評価するだろうか。
(住宅問題エディター 堀大介)
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