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[FT]円安でも買われない企業 リスク取らぬ日本に魅力なし

Financial Times

日本の人々の間では今、自分たちが持っている円の価値の下落ぶりを嘆きつつこんな頭の体操が広がっている。世界で最もきらびやかで、おいしい食べ物があふれる日本の消費社会の物価は、外国人からみたらいったいどれほど安く感じられるのだろうと計算することだ。

朝のテレビ番組や著名な経済学者、動画投稿アプリのインフルエンサーたちは、ドイツの人気スニーカーブランド「プーマ」の限定モデルやマクドナルドで好評の「サムライマック」、米アップルのスマホの最新機種「iPhone14」などを取り上げて、これらが外国人観光客の人気をいかに集めそうかを話している。とにかく円が24年ぶりの安値をつけていることからドルを持つ人にとってはあらゆるものが激安に映る。

ただすべてが安く思えても、割安が続く日本の株式市場だけは外国人の人気を集めそうにはない。

外国人観光客が落とすお金の力は日銀の介入以上とも

日本はこの2年半、海外からの観光客をほとんど受け入れてこなかったが、11日から水際対策を緩和したのに伴い、外国人が日本にいかにお金を落としていくかは「頭の体操」から現実のものとなる。

政府は長く差し止めていた一部の国・地域から観光や出張目的で来日する外国人の査証(ビザ)を免除する措置を再開し、入国者数の上限も撤廃した。

日本が期待しているのは円安効果で爆買いしてくれる外国人訪問客を呼び戻すことだ。年間4000万人に上る訪日客(と東京五輪に伴う一時的な訪日ブーム)に対応できるだけのおもてなしの態勢を整えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大でそれが実現することはなかった。

写真共有アプリ「インスタグラム」には豪華な刺し身料理と一緒に自撮りした写真があふれ返るだろう。しかもその価格は15ドル(約2200円)程度だ。外国人観光客は2019年に訪日した時より30%ほど購買力が高くなったドルの恩恵を存分に味わえるということだ。

就任から1年を迎えても日本経済の成長戦略を投資家に納得させられずにいる岸田文雄首相は円安に伴うインバウンド(訪日外国人客)が持つ可能性に飛びついた。岸田氏は3日の所信表明演説で「円安のメリットを最大限引き出す」と述べ、訪日外国人による年間旅行消費額5兆円超の達成を目指すとした。

この目標は、19年の総入国者数の3割を占めていた中国人が自由に旅行できるようにならない限り達成は困難だろう。それでも欧米や台湾からの旅行客が落とすお金はすさまじい額になる。その規模は一部のアナリストの間では、日銀が9月22日に緊急介入した200億ドル規模に上る円買い・ドル売りよりも円安を是正するには効果が大きいとささやかれるほどだ。

観光客に加え海外投資家の訪日も復活

だが、今回の規制緩和で日本に戻ってくると期待されている外国人は観光客だけではない。米国や欧州に拠点をおくファンドマネジャーなどの投資家も久々に日本に再び出張してくると思われる。

実際に会って握手できる距離感を大事にする日本の上場企業は、わざわざ来日した投資家に面と向かって自社に投資するよう説得するのが得意だ。こうした投資家も海外からの観光客と同様、円安に乗じて大量の買い物をし、スーツケースをいっぱいにして帰国することだろう。

しかし、だからといって彼らのファンドの投資ポートフォリオにおける日本株の比率が高くなる可能性は引き続き低い。

日本企業への海外投資増えない4つの理由

日本企業への投資が増えないのには理由が4つある。

第1は、今の円安は日銀が超緩和策に固執し、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ政策と乖離(かいり)してしまっているのが原因だが、日本の株式市場が割安な水準にあり続けているのには、もっと本質的な理由がある。

日本はそもそも天然資源に恵まれず、高齢化問題を抱え、エネルギー政策は福島第1原発事故以来この10年、ほぼ何の進展もなく、こうした問題が日本経済をむしばみ続けている。故安倍晋三元首相は「日本は変わりつつある」と国内外にアピールするのに成功したが、岸田氏はそうしたメッセージを全く発信できていない。

第2の理由は、日本市場には利益率が高く多様な企業が多く存在するにもかかわらず、国内の投資家が触手を伸ばさないことにある。

この7年、日本には物言う株主によるアクティビズムの波が相次いで押し寄せた。その結果、比較的規模の小さな動きであっても投資家である株主が圧力をかけるリスクをいとわなければ、旧弊な企業価値を死守しようとする日本企業のかたくなな姿勢を解きほぐせることが示された。だが、国内の年金基金や保険会社といった日本の大手機関投資家がその動きに続くことはなく、日本企業を根本から恒久的に変えるといった地殻変動も起きなかった。

第3の理由は東芝を巡る状況だ。日本を代表する大企業の一つである東芝は再編計画を公募しており、数十億ドル規模の買収成立を求めてプライベートエクイティ(PE)が主導する海外のコンソーシアムなど4陣営が競い合うとみられる。しかし、国内からは海外ファンドに比べ規模の小さな官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)などが名乗りを上げているだけだ。大きなビジョンを掲げて、リスクを取ろうとする日本のファンドが登場していないこと自体、衝撃的といえる。

「変わる」という期待ができない日本

今回、コロナ禍を経て海外の投資家が訪日しても日本企業に思ったほど投資しないと思われる第4の理由は、今後さらに3年待ってみても、日本が大きく変わると期待できる要素が全く見当たらないことだ。

今、多くの人が懸念しているように世界的な景気後退が起きつつある。日本企業の多くは抱える債務の規模が比較的小さく、多額の内部留保を積み上げてきたことからほかの国・地域ほど大打撃は受けそうにない。むしろ投資家には魅力的に映ってもいいはずだ。

まさにこうした「雨の日」に備え、晴れた日が何年続こうとも内部留保をせっせとためてきた。企業としての野心より存続を優先するやり方を貫いてきたわけだが、海外投資家はそんな企業は求めていない。

景気後退という嵐の中にあっても、あえて失敗を恐れずに果敢に挑戦しようという日本企業の姿を既に想像できないうえ、嵐が去ってもリスクを取ろうとはせず塹壕(ざんごう)の中で縮こまり続ける姿を想像できるだけに日本企業を今が買い時だと考える海外投資家はいなさそうだ。

By Leo Lewis