· 

負動産からWeb3型シェアハウスへ 起業家呼び込む 負動産transformation(3)

「今までどんなビジネスをされてきたのですか」「これから一緒に頑張っていきましょう」。10月上旬、東京・神楽坂の路地に建つ古びた2階建ての家屋に足を踏み入れると、若々しく活気に満ちた声が聞こえてきた。

ここは学生起業家や起業を志す学生向けのシェアハウス。築60年を超える空き家をリノベーションし、9月にオープンしたばかりだ。最大10人が寝泊まりできる。

居間があった1階は住人が集える共用スペースにした。隣接する古アパートも改装し、寝室やシャワールームを用意した。入居者は順次増えており、この日もプログラミング技術を使ったサービス開発を目指す武蔵大学4年の納冨泰一が仲間に加わった。

今の住人は4人。「すでに起業している同世代から、目線を同じくして学びたい」(納冨)。実際、住人は多士済々だ。その一人がスポーツマーケティング会社を運営する中山美和。実は北海道大学の4年生で、大学を休学して9月末に入居してきた。学生ながらすでに起業している中山も「仕事では大人の人と話すことが多いが、ここでは同世代のアイデアも聞くことができるので新鮮です」と話す。

高い志を持つ若者たちが思い思いに議論を交わし、刺激し合いビジネスの手がかりをつかむ。こうしたコミュニケーションの拠点は、学生起業家が増えつつある昨今では特に珍しいことではない。

神楽坂シェアハウスがもう一工夫したのは、次世代型インターネット「Web3」のアイデアを掛け合わせたことだ。ここに空き家再生のヒントが隠されている。

DAOで出会いを創出

Web3は分散台帳のブロックチェーンを基盤技術とすることで、プラットフォーマーと呼ばれる一部の企業が情報を独占するのではなく、情報を分散処理する概念だ。そこで誕生しつつあるのがDAO(分散型自律組織)と呼ばれる新しい集団のあり方。会社や特定のサービスに依存する中央集権的な従来の組織形態とは違い、暗号資産などをもとにネット上に仮想の集団を創り上げる。

神楽坂シェアハウスの管理にはDAOの発想が取り入れられている。トークンと呼ばれる暗号資産を買えば、誰でも管理に参加できる仕組みだ。もちろん入居者はトークンを購入する。1トークンは3万円。立ち上げ時に240トークンが発行された。会社で言えば株券に近いもので、備品の購入など予算の配分などの際には基本的にトークンを多く持つ人の発言が優先される。

共用スペースがある母屋㊧と寝室などを備えた住居棟を整備した

面白いのは、シェアハウスへの貢献度に応じて「リワード(報酬)」という形でトークンが配分される点だ。掃除は最大4リワード、ベッドの組み立ては20リワード、投稿サービス「note」などで情報配信すれば8リワード。100リワードたまれば1トークンになる仕組みだ。1トークンあれば1カ月間、シェアハウスに住む権利を得ることができる。

リアルの住まいと仮想集団のDAO。その組み合わせは新しい出会いも生む。住人の中山はリワードを得るためにシェアハウスの魅力を伝える記事を書いたところ、DAOに参加する職業ライターから文章の書き方について助言をもらった。「本業のマーケティングでも上手な表現でアピールできれば強みになる」と充実した様子だ。

Web3型シェアハウスを始めたのが2014年創業のスタートアップ、巻組(宮城県石巻市)だ。空き家を再生したシェアハウスなど15棟を宮城県内で展開しており、早稲田など学生起業家を多く輩出する大学が近隣に集積する神楽坂に進出した。

原点は東日本大震災

「これだけ家余りが深刻な状況なのに、賃料だけで(中古物件の維持を)まかなっていくのは限界がある」。巻組社長の渡辺享子は空き家にWeb3の発想を組み合わせる意義をこう語る。

従来の不動産賃貸のビジネスモデルでは、仮に空き家を改装して賃貸物件として再活用できたとしても、相場賃料に比べて極端に安くなる可能性が高い。日本は「新築信仰」が根強く、仲介事業者も物件の取り扱いに消極的となりがちだからだ。

だが暗号資産のトークンは入居者でなくても購入できる。参加者たちが知恵を絞って「ここに住みたい」と思わせるような魅力あるシェアハウスにできれば、おのずとトークンの価値も高まる。安い賃料という空き家再生を阻んできた壁を乗り越えることができるわけだ。

単なるシェアハウスとして空き家を再活用するのにとどまらず、Web3のテクノロジーを活用して物件そのものの価値を高める。ここに負動産を「富動産」に変身させる狙いがあるわけだ。

空き家再生に新風を吹き込む巻組。原点は創業者の渡辺が東日本大震災で見た景色だった。東京工業大学で都市計画を学ぶ大学院生だった渡辺は震災直後の石巻でボランティアに参加した。

会社経営する中山㊥と起業を志す学生の納冨㊨らはシェアハウスで議論をかわす

同じように全国から集まってきたボランティアにとって当時の悩みの種は住居がないことだった。「住むところがないから」と言って志半ばで被災地を去る仲間の姿を見て「もったいないな」と思った渡辺は一軒家を借り上げてボランティア向けに貸し出すことにした。

やがて石巻の街でも復興が進むと、今度は真逆の問題に直面する。人口が流出し、一転して空き家が増え始めたのだ。「憤りを感じました。そこで不動産業界のあり方を変えたいと考えるようになったのです」

こうして空き家再生を兼ねたシェアハウス運営を始めた巻組。21年にスタートアップ支援のガイアックスから出資を受けた際に浮かんだアイデアがWeb3型シェアハウスだった。第2号として仙台市でも検討しているという。

デジタル村民で街おこし

モデルとしたのが、新潟県長岡市の地域団体、山古志住民会議が手がける「Nishikigoi NFT」だ。急速に過疎化が進む旧山古志村(現長岡市)は「デジタル村民」を集めた街おこしを進める。

山古志発祥のニシキゴイを描いたNFT(非代替性トークン)のデジタルアートを購入すると、街おこしを目的としたDAOの一員になれる。DAOに参加するデジタル村民は住民とみなされ、アイデアや資金を使って山古志の課題解決に関われる。デジタル村民の数は実際の旧村民の数を上回る水準だという。

人口減少が著しい地域でWeb3の利用に活路を見いだそうとする動きはほかにも広がっている。ソコライフテクノロジー(岩手県紫波町)は地域課題の解決を目指す「Furusato DAO」(仮称)の設立を目指す。

その仕組みは巻組のシェアハウスによく似ている。例えば雪かきや草刈り、車での買い物など困りごとを抱える住民が手助けしてもらえるようDAOで呼びかける。作業を代行すればリワードが配分される。社長の菅原壮弘は「DAOを通じて町が便利になれば住宅価値が高まり、空き家の削減にもつながるのではないか」と期待を寄せる。

日本全国に広がる負動産。新しいテクノロジーが問題解決の突破口となるか。

=敬称略

(石崎開)