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王者メタvsTikTok系 SNS2強がVRゴーグルでも火花

高性能品に幅を広げビジネス需要を掘り起こす。メタは世界シェアで7割近い王者だが、足元では動画投稿アプリTikTok(ティックトック)の運営企業を傘下に持つ中国企業が追い上げる。SNS(交流サイト)でしのぎを削る米中IT(情報技術)大手が成長期待の大きいVRでも競合関係になろうとしている。

メタが25日に発売する「Meta Quest Pro(メタクエストプロ)」は、日本向け価格が22万6800円と、2020年に発売した「メタクエスト2」の約4倍だ。11日のオンラインイベントでメタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「仕事用や最高の体験を求める人のための高性能デバイスだ」と、自信を見せた。

クエスト 2と比べて、ディスプレーは光を繰り返し屈折させる薄型レンズで40%薄くし、半導体の処理能力も50%引き上げた。表情や眼球の動きを捉える内蔵カメラで、アバターの表情がより豊かになるといい、製品デザインや会議といった遠隔の共同作業向けの機能を充実させた。

メタは14年にVRゴーグルのオキュラスを買収すると、20年に高性能なVRゴーグルとして破格の299ドル(発売当時、税込み約3万7000円)でクエスト2を発売。ゲームに加え、仕事やフィットネスなど独自コンテンツでVR市場を開拓してきた。11日には米マイクロソフトや米アドビとの連携を発表しており、プロ投入と合わせて法人向け中心の高価格帯の市場も狙う。

香港の調査会社カウンターポイントによると、メタはAR(拡張現実)を含む世界のVRゴーグル市場(4~6月)の66%を握る。「一強状態」のメタを追い上げるのが、11%と2位に入った北京小鳥看看科技(ピコ・テクノロジー)などの中国勢だ。

バイトダンス傘下のピコは10月7日に最新機種を発売した

ピコは「TikTok」の運営企業を傘下に持つ字節跳動(バイトダンス)が21年に買収した。法人向け中心だったが、22年に日本、欧州などで個人向けに参入し、7日に高機能ながら4万円台と価格を抑えた新機種「ピコ4」を発売したばかり。ゲームやフィットネスなどの独自コンテンツも約150件(国内向け)用意する。

ティックトックは短尺動画のアプリで利用者を増やし、20、21年のアプリダウンロード数で世界首位になった実績がある。メタが本社を置く米国でも「フェイスブック」や「インスタグラム」を上回り、広告収入が柱のメタにとって大きな脅威といえる。ピコの日本法人によると、「開発や販売でバイトダンスとの連携は(現時点では)ない」とした上で、「知名度で課題がある。量販店での販促や国内企業と連携したコンテンツ開発に力を入れ、VR市場拡大につなげたい」としている。

VR端末はスマホをセットする簡易なタイプも多いが、近年は通信機能を備えた独立型が主流になっている。独立型で攻勢を強める米中のテック大手に対し、「VR元年」といわれた16年ごろから取り組んできたのが、台湾の通信機器の宏達国際電子(HTC)と、ソニーグループ傘下のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)だ。

HTCは室内設置のセンサーを用いる高精度なVRゴーグルを得意とし、3次元モデルの試作やゲームセンター向けなど、法人需要を開拓してきた。個人向けでも3Dキャラクターでライブ配信などをするVチューバー(バーチャルユーチューバー)用で人気が高い。一式で10万円以上と中・高価格帯が中心だったが、21年に発売した「VIVE Flow(バイブフロー)」は189グラムと軽量のゴーグル型で、よりライトな層へ顧客拡大を狙っている。

SIEは16年に自社のゲーム機「プレイステーション(PS)」向けの「PSVR」を発売。カウンターポイントによると21年までに660万台を販売した。23年初頭にはおよそ7年ぶりとなるVRゴーグルの新製品を発売する。最新の「PS5」と接続して使うタイプで、発売時には専用タイトルを20以上用意しており、まずは主力のゲームファン向けに浸透を狙う。

VR普及に3つの壁

米調査会社のIDCによると、VRゴーグルの世界出荷台数は26年に約3100万台と21年の3倍に拡大する見通しだが、規模は家庭用ゲーム機と同程度で、10億台を超すスマホなどには及ばない。量販店などの販売データを分析するBCN(東京・千代田)によると、国内向けの販売数量は20年以降横ばい傾向だ。同社の森英二アナリストは「まだコアな顧客向けが中心で、一般向けの普及には壁が多い」と分析する。
1つ目の壁が価格だ。独立型の場合、安くても5万円前後かかる。最も売れている「メタクエスト2」の場合、円安などで8月に国内向けで約2万円値上げしたが、BCNによると9月の販売数量は値上げ前の6月の4分の1まで減少した。量産によるコスト削減効果も限定的で、普及を優先した大幅な値下げ戦略は難しい状況だ。

機能面の向上も課題だ。軽量化は進むものの、バッテリーや通信、映像装置を入れると500グラム台で、長時間装着すると疲れや酔いを感じる人が多い。HTC日本法人の児島全克社長は「今後、クラウド通信やデータ処理が高速化すれば、軽量のグラス型でも十分な体験を提供できる」と期待する。
高性能品が得意のHTCだが、21年には軽量で安価なグラス型を投入した
VR向けの3次元コンテンツはデータ処理が複雑で、開発側の負担が大きい。メタ、ピコ、ソニーなどはユーザー獲得へ独自のコンテンツ開発に力を入れる。一部のパソコン用ゲームなどを除いて相互に使えないコンテンツが多い。利用者が分散するほど、開発会社はつくり分けのコストが膨らみやすい。

ゲーム業界からは「VRの市場自体は大きくないし、長時間遊ぶことも難しいなど制約が大きく、専用のコンテンツ作りは難しい」(国内大手)という声もあがる。BCNの森氏は「大部分の消費者には『VRゴーグルだから体験できること』の価値が伝わっていない。普及には、皆が遊びたくなる大人気コンテンツも欠かせない」と指摘する。(伴正春、伊藤威、徐潮)