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心の健康 自然の力生かす コロナ禍でストレス社会に 木材やせせらぎ音に触れる

遠隔授業の進展などに伴い、家の中にこもりがちになったこともストレスをためる原因になっているようだ。心の健康管理を充実するために、個人としてどう処方すればいいのか。森林浴など自然がもたらすストレス抑制の効果を研究している千葉大学の宮崎良文名誉教授に聞いた。

 

――森林浴は海外でも「Shinrin-yoku」として広まり、世界的に注目されています。

「『森林浴』という言葉は、1982年に当時の秋山智英林野庁長官が海水浴になぞらえて考案しました。森に入ると安らぎを感じる人は多いでしょう。実際には心身にどんな影響もたらしているのか。自然と医学の両方の研究者という立ち位置でデータをもとに研究しています」

「この分野の研究が少ないためか、海外からの問い合わせも多く、かつて米タイム誌や英ガーディアン紙などでも取り上げられました。2022年4月にはスイスの出版社から本を出しました」

「森林浴だけでなく花や木材、川の音などの自然には、本来の適正値に近づける作用があり、人間の『あるべき状態』に戻す効果があることがわかっています。森林を歩くと、血圧の高い人は低下し、低い人は上昇します。『科学的データの裏付けのある自然がもたらす心身への良い効果』と『自然セラピー』を定義しています」

――メンタル面での不調を訴える若者らに対して、自然セラピーは効果がありますか。

「期待できます。18年にうつ状態の人を対象に実験を行った結果、木材がリラックス効果をもたらす可能性を発見しました」

「都内のクリニックの待合で、壁が木材の場合と白壁とで、通院中の27歳から60歳までの中程度のうつ病患者24人の自律神経活動や心拍数を比較しました。木材壁を見た時の方がリラックスしたときに優位になる副交感神経活動は高まり、心拍数が低下しました」

――ストレスや不安感が高まった結果、オンラインカジノで大金を使うなど、ギャンブル依存症の拡大も社会問題化しています。

「25歳から60歳までのギャンブル依存症患者22人を対象にした実験では、杉むく材に触れることで、脳(前頭前野)の血流量が低下するという結果がでました。つまり、木材に触れる前に比べて脳の活動が鎮静化しリラックスした状態になったといえます」

「また、自然の聴覚刺激からもリラックス効果が得られます。ギャンブル依存症の男性患者12人(19歳から58歳)に、室内でヘッドホンをつけて長野県戸隠エリアの森にある小川のせせらぎ音と東京都渋谷区の交差点の交通音とを聞いてもらいました」

「都市の音では脳の活動が徐々に活発になりましたが、自然の音を聞くと鎮静化しました。小川のせせらぎ音を聞いている間は、抑うつや緊張、不安などの否定的な感情尺度得点が明らかに減少していました」

――ストレス軽減およびメンタルヘルス向上に向けた自然セラピーの課題は何でしょうか。

「個人差が大きいことです。木の匂いでリラックスすることはわかっていましたが、それは平均値であって、嫌いな香りであればリラックスはできません。そこで一つの試みとして、被験者を激しいタイプの行動特性『タイプA群』と穏やかな行動特性『タイプB群』とに分けた実験に取り組んでいます」

「都内の高層ビルから撮影した海辺と都市の景観画像を20代前半の女子学生45人に見せて脳の活動を調べたところ、タイプA群では海辺画像を見たときの脳活動が都市画像に比べて鎮静化しました。一方でB群では違いがでませんでした。行動特性の違いにより、異なる生理的変化が起きると考えられます」

 

みやざき・よしふみ 東京農工大修士。東京医科歯科大医学部助手(医学博士)、森林総合研究所チーム長、千葉大環境健康フィールド科学センター教授。近著は「木材セラピー」(池井晴美氏と共著)。英語やドイツ語での書著多数。