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大手銀も送金無料競争 キャッシュレス「ことら」始動 収益構造転換迫る

相手の口座番号を知らなくても、携帯電話番号を使って無料もしくは安く送金できるようになる。全国銀行協会は2023年以降に銀行間の送金システムをフィンテック企業に開放する方針で、キャッシュレスアプリから直接銀行口座に送金可能になる。手数料引き下げ競争は必至で、銀行は決済・送金手数料では稼げない時代に突入する。

 

日本の銀行間の送金は全国の金融機関が接続する全国銀行データ通信システムを通じて決済され、送金ごとに銀行がコストを負担してきた。キャッシュレス決済の普及により少額送金が増え、全銀システムを毎回通ると利用料がかさむ問題が浮上。3メガバンクやりそな銀行、埼玉りそな銀行が出資することら(東京・中央)は全銀システムではなく、日本電子決済推進機構が運営する別の決済システムを使い、少額なら安く送金できるインフラを新設した。

「個人間のお金のやりとりが変わる」。ことらの川越洋社長は11日、サービス発表会で力を込めた。対応する銀行は3メガバンクや地方銀行など20行だが、さらに37行の参加が決定済み。ことらに接続できる口座は57行で約2億1000万口座と日本の人口を超える。

利用者は個人間で10万円以下であれば、アプリに携帯電話番号やメールアドレスを入力するだけで送金できるようになる。手数料は各行が決める前提だが、従来の銀行振り込みと比べて安くなる可能性が高い。11日から参加した20行は全て手数料を無料にする。

無料が広がるのは、キャッシュレスでの個人間送金は無料が当たり前だからだ。例えば、PayPayやLINEペイでは1円単位で無料送金できる。割り勘などでの利用だけでなく、家族同士の仕送りなどでも活用されている。デジタルネーティブ世代は1回ごとに手数料がかかる銀行振り込みやネットバンキングを敬遠しつつあった。

世界の小口決済改革の口火を切ったのは英国だ。英銀行業界は即時決済可能な新システムを08年に稼働させた上で、18年に銀行以外の事業者との接続を認めた。動きはシンガポールや香港に波及し、個人顧客の小口決済手数料は原則無料となった。これらの国で数十万円を送れるのと比較すれば、日本は「超小口」に限定した格好となった。

日本のキャッシュレスインフラも遅まきながら整備が進む。全国銀行協会は9月、キャッシュレス口座を提供するフィンテック企業に、全銀システムへの加盟を解禁すると発表した。キャッシュレスアプリの利用者は他人の銀行口座に直接送金することが可能になる。

ATMや現金輸送など現金決済インフラを維持するコストは年約2.8兆円にのぼる。キャッシュレスが進めば銀行にとっても利点は大きい。競争次第では手数料に下げ余地が生まれ、利用者の利便性も高まる。

ことらが存在感を増せば、デジタル通貨などを使って低額の決済サービス実現を目指していたフィンテック企業への影響も出そうだ。例えば、銀行振り込みの10分の1の決済手数料を目指すデジタル通貨決済会社の幹部は「個人向けではなく企業間決済に力を入れたい」(同社幹部)と戦略転換を示唆する。

地域金融機関には打撃も出そうだ。11日からことらに参加するのは約100行中15行。手数料を安くする趣旨に異論はなくても、大手銀行からの送金に伴う手数料を無視できない地銀は「収益への影響を考えると、参加をためらわざるをえない」という。参加を決めた銀行の幹部は「ことらによる減収分は別の手数料上げで収支を均衡させたい」との声も出る。

銀行は決済手数料では稼げない時代になる。決済関連の業務コストを減らすことに加え、小口決済のデータ収集・蓄積から個人向けローンの審査や融資実行などにつなげたり、非金融事業者のサービスに決済を組み込み収益をシェアするエンベデッドファイナンス(組み込み金融)を推進したりする力が問われる。

(フィンテックエディター 関口慶太、渡辺淳、北川開)