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RIZAP、1日5分のコンビニジム 読書は「10分」の時代 倍速ニッポン 番外編(中)

手間のかかるサービス分野でも、時短志向に対応した動きが広がっている。その1つがRIZAPグループが本格展開に乗り出すコンビニエンス型ジム「chocozap」(チョコザップ)だ。

 

短時間・低価格に照準

1日5分のトレーニングを掲げ、ジムで着替えや靴の履き替えは不要。仕事帰りや買い物の合間などに気軽に取り組めるのが特徴だ。入退会はジムで手続きをするのが一般的だが、すべてスマートフォンで対応可能と利用者の時短を徹底した。月額も2980円(税別)と「この値段で使わないなんておかしいというレベルまで下げた」(瀬戸健社長)。

RIZAPといえば、「結果にコミット」をキーワードに2カ月間・30万円でスリムなボディーメークを実現することをうたい、全国に店舗網を広げた。ボディーメークにとどまらず、英語、ゴルフにも広げ、高級トレーニングブランドとして地位を確立した。以前、「30万円は高いですね」と聞くと、瀬戸氏は「理想のボディーを手に入れることは海外の高級ブランドの衣料品を買うのと同じ価値」とさらりと答えていた。

そんな瀬戸氏が一気に「100分の1」価格のサービスに取り組む。RIZAPは過剰なM&A(合併・買収)投資を進めた結果、業績が悪化。2021年3月期の連結決算はコスト削減や事業売却で3期ぶりの最終黒字となり、22年3月期も黒字だった。だが世間的には、急激な低価格戦略に映る。特別な高価格サービスというブランド価値が毀損する可能性や、「苦し紛れの大幅値下げなのか」など悪い評判につながるリスクもある。

新業態「chocozap」の発表会に登壇したRIZAPグループの瀬戸健社長

「物理的な制約を越える」

しかし瀬戸氏は、次の成長戦略を進めるうえで消費者の「時短志向」をくみ取った新サービスが不可欠とみる。新型コロナウイルスの感染拡大で人々の時間感覚はがらりと変わった。リモートワークの拡大、デジタル化の加速を背景に、ネットで日用品を買ったり、動画をこまめに見たり、隙間時間を無駄なく使う動きが広がった。

「成功のジレンマではないが、価値を上げることばかりを考えてきた。従来は人によるボディーメーク。今度はデジタル技術や人工知能(AI)を活用し、人手や時間、場所など物理的な制約を乗り越えるサービスとして全国に広げていく」(瀬戸氏)

チョコザップでは、体組成計や血圧・心拍数を測定するヘルスウオッチを無償提供し、アプリと連動して自由にトレーニングを重ねる。なぜ1日5分か。適切な内容なら健康数値を改善できるうえ、30分以上の長時間運動に比べて継続しやすいからだ。2カ月30万円から1日5分の2980円へ。時間と価格破壊を進めたチョコザップは9月末時点で134店に増え、25年度に2000店を目指す。

ビジネス書要約に98万人

身体を短期間で鍛えるチョコザップだけでなく、学びの倍速を助けるサービスも人気を集めている。ビジネス書を中心に、約3000冊を10分ほどの要約テキストで読める「flier」(フライヤー)だ。累計会員は98万人とコロナ禍の2年で倍に。これまで30代、40代がメインだったが、「ここ数年で就活生や若手社会人ら10代20代のユーザーが増えている」とフライヤー(東京・千代田)の小松綾子氏は話す。

コロナ禍では企業研修向けが伸び、約660社が利用している。医薬品メーカーの岡山大鵬薬品(岡山県備前市)では、管理職などを対象に研修の一環としてフライヤーを導入した。人事担当者の柏木孝則氏は「管理職は日々様々な判断を迫られる。そのためには情報のインプットが不可欠」と話す。普通に読めば5~6時間かかるビジネス書を10分ほどで概要だけつかめるのは、「時短を求める時代のニーズにあう」。

書籍要約サービス「フライヤー」と連動した売り場を展開する書店も(東京都品川区の未来屋書店品川シーサイド)

知性や教養を育む目的の読書まで倍速にすることに批判の声もあるだろう。しかし要約から興味を持って本の購入に至るなど、効率的に得た情報から学びを深める消費者も少なくない。デジタル配信がいつでも、どこでも学べる扉を開いた。

デジタル消費の先へ

フランスの思想家、ジャン・ボードリヤールは著書「消費社会の神話と構造」でファッション、自動車、メディア、教養、娯楽、美しさ、健康などあらゆるものがすべては消費される「記号」にすぎないと喝破した。デジタル化はまさにボードリヤールの見立てを現実にした格好だ。

時短重視で「記号」を消費していくことは、本質的な意味より他人との差異を重視する現代ならではの空虚感も覚えるが、過剰な情報を余すことなく生かす知恵ともいえる。もちろんそれだけでは満足できないのも確か。倍速化の先にある、よりよく生きる価値を探す起点ととらえるべきだろう。デジタル社会の到来はゴールではないのだから。

(編集委員 中村直文、荒木玲)