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水際緩和、訪日回復に弾み 国際線予約が急増 円安追い風、消費に期待 最多の中国は遅れる恐れ

インバウンド(訪日外国人)消費回復への期待が高まってきた。政府が11日から新型コロナウイルスの水際対策を緩和することを受け、航空大手2社の11月以降の日本向け国際線予約は3~5倍に急増した。訪日消費は2023年春までにコロナ前の半分程度の水準に戻るとの見方もある。円安も生かして需要を取り込めるかが試される。

 

岸田文雄首相は9月22日、訪日客の個人旅行を認め、短期滞在の査証(ビザ)免除も再開すると表明した。8月に19年同月の7%弱だった訪日客の回復が注目される。

日本航空(JAL)の日本行き国際線は11~12月の予約が緩和表明前の9月中旬時点と比べ3倍に増えた。ほとんどが東南アジアや台湾などからの訪日需要という。赤坂祐二社長は5日、成田空港でのイベントで記者団に「円安はものすごい追い風だ」と語った。

JALは今春時点で23年1~3月の国際線旅客数がコロナ前の65%に回復すると予想していた。足元の予約急増を踏まえ、7~9月期の決算発表に合わせて上方修正する可能性もある。

全日本空輸(ANA)では年末年始の日本行き国際線の1日あたり予約数が緩和表明前の5倍となった。ANAホールディングスの芝田浩二社長は「規制緩和で予約が増えた。運航規模を元に戻していく」としている。

ANAはコロナの影響が本格化する前に立てた20年度の国際線の計画便数に比べ、22年9月初旬時点で11月の運航数を39%、12月以降を38%としていた。水際対策の緩和表明後、それぞれ43%と44%に引き上げた。

国連世界観光機関(UNWTO)によると、世界の外国人観光客数は22年1~5月に19年の半分の水準に回復した。

日本政策投資銀行と日本交通公社が21年10月にアジアで実施した調査によると「次に旅行したい国・地域」(複数回答)の首位は日本(67%)となり、韓国(43%)や台湾(28%)に大差をつけた。欧州や米国などでの調査でも首位だった。

19年は訪日客が3188万人、消費額は4.8兆円に達した。大和総研は日本人気や航空需要の戻り、1ドル=145円程度まで進んだ円安を踏まえ、インバウンド消費の回復余地が年5.7兆円規模あると試算。小林若葉エコノミストは「12月から23年春にかけて消費額は月ベースでコロナ前の5割程度まで戻る」との見方を示す。

緩和の効果はホテルの予約にも見える。西武・プリンスホテルズワールドワイドでは23年3月までの外国人予約額が、10月初旬に9月下旬時点の2倍になった。星野リゾートの「星のや東京」(東京・千代田)では22年度中にも単月で宿泊客の半数程度が訪日客になる見込みだ。

北海道ではニセコのコンドミニアムで「12月下旬から年末年始にかけての予約は既に海外客を中心に満室」(支配人)。リゾート施設運営の加森観光(札幌市)は20~21年にほぼゼロだった海外客向けの広告宣伝費を19年の半分程度に戻した。

訪日客と国内旅行客の復調を見込んだ人材確保の動きも活発だ。厚生労働省によると8月の宿泊業・飲食サービス業の新規求人数は前年同月比51.1%増となった。リクルートによると三大都市圏のパート・アルバイトの平均時給は8月にホテルスタッフで38円(3.6%)増えた。

同社の宇佐川邦子氏は「飲食や宿泊業では人材ニーズがさらに高まる」と指摘する。働き手の確保が需要取り込みの壁となる懸念が残る。

訪日客の回復の速さは19年に4割弱を占めた中国・香港の政策にも左右される。最も多かった中国は帰国後に厳しい行動制限を課しており、回復が遅れる恐れがある。訪日客がコロナ前の水準に戻るのは「25年ごろまでかかる」(航空大手)と慎重な見方も根強い。

円安は物価の上昇を通じて家計を圧迫する要因にもなっている。訪日客の受け皿を整え、中国以外からの来客を増やす工夫が欠かせない。