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マンション高騰の果て1 「東京にいられない」

「1駅先の高崎駅から新幹線に乗れば東京駅まで1時間。都内在住者の購入も増えている」。不動産大手NTT都市開発の統括責任者、新浩士は手応えを見せる。

 

2023年秋に完成するマンションは、NTT都市開発の主力ブランド「ウエリス」シリーズで群馬県初の物件だ。3LDKを中心とした間取りや3千万~4千万円台と東京23区の半値以下の価格が評価され、総戸数126戸のうち、22年夏に一部の戸数を販売すると瞬く間に完売。購入者の1割が都内在住者だ。

NTT都市開発だけではない。「メジャーセブン」と呼ばれる大手7社の野村不動産や東京建物もそれぞれ宇都宮市や前橋市など、手薄な北関東でマンション開発を手掛けるようになった。東京や南関東で開発適地が少なく、新型コロナウイルス下のテレワーク普及で通勤の利便性にこだわる消費者が減ったからだ。

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不動産情報サイトの運営会社で働く佐伯詩織(31)は21年末、東京都荒川区から栃木県下野市に引っ越した。東京への通勤は週に1度。夫も在宅勤務が多い。下野市のマンションの家賃は荒川区より4割安いのに、広さは6割拡大の約80平方メートル。広いキッチンで料理の機会も増え、趣味も広がった。佐伯は「今の生活の方が快適。もう東京にはいられない」と話す。

今年1月1日時点の東京都の人口は1327万7052人と、26年ぶりに前年を下回った。足元では行動制限の緩和で若者を中心に転入超過も見られるが、東京一極集中に歯止めがかかった。

Zホールディングス傘下のヤフーでは在宅勤務が定着し、4月から社員の交通費の上限を撤廃。新幹線や飛行機通勤も認めている。ヤフー常務執行役員の湯川高康は「柔軟な働き方を社員が選べるようにする」と話す。

東京から人が離れているのに、21年に発売された東京23区の新築分譲マンションの平均価格は前年比7.5%増の8293万円まで上昇した。

東京カンテイ(東京・品川)によると、20年の年収に対する新築マンション価格の倍率は東京で13.4倍。賃金が上がらない中、平均年収の7倍前後とされる「適正水準」を超えた市場で変調の兆しが見え始めている。

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その一つが購買層の変化だ。首都圏1都3県の新築マンションは、購買力のある共働き世帯「パワーカップル」らが自らの住まいを探す「実需」が支えているが、ここに来て投資目的の「仮需」の存在感も高まっているとの指摘がある。

管理会社の大和ライフネクスト(東京・港)によると、同社が21年1月時点で管理を受託する20階建て以上の超高層マンション95棟の中で、40階以上では投資目的などの非居住者の割合が約38%に上った。「投資目的でマンションを買う動きが強まった。円安による割安感から外国人も増えている」(東京・港の不動産助言会社トータルブレイン副社長の杉原禎之)

トータルブレインによると、若年層が購入しやすい販売価格3千万円台の21年の新規物件の供給数は、1都3県で24件と15年の2割程度。横浜市やさいたま市でも探すのが難しくなった。ライフルホームズ総研チーフアナリストの中山登志朗は「東京都心の物件を物色する富裕層と、東京を離れていく中間層の二極化が強まる」と話す。

働く世帯が離れ、仮需の存在感が高まると市況は不安定になりやすい。

コロナ下の新たな住まい探しで復調した首都圏の新築マンションだが、1~6月の発売戸数は4.2%減の1万2716戸だった。不動産経済研究所が当初予想したプラスから一転マイナスだ。足元で発売初月の契約率が好調の目安とされる7割を下回り、6割台前半の月も目立ってきた。

三菱地所レジデンス社長の宮島正治は「低金利や需給バランスが微妙に合い、今のマンション市場は成り立っている」と指摘する。不動産協会理事長(三井不動産社長)の菰田正信は「価格含め市場の先行きは非常に見通しづらい」と、不透明感を覚え始めている。

(敬称略)

歴史的な低金利やパワーカップルの購買力に支えられた首都圏の新築マンションに変調の兆しが見られる。マンション高騰の果てを追う。