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築地本願寺が放つ新しい「寺」 1階にカフェ、本堂は2階

1階にプロントコーポレーション(東京・港)のカフェ、2階に本堂、3~9階までは共立メンテナンス運営の介護付き有料老人ホームが入居する複合ビルだ。

8月31日に行われた内覧会で、築地本願寺 責任役員 東京教区教務所長 副宗務長 東森尚人氏は、佃島・月島エリアは近年、高層マンションが建設されて住民も増え、新たなコミュニティー形成が必要になっていること、佃島分院の建て替えを考える上で佃島分院をその活動拠点の一つにしたいと考えたことを説明。このかいわいを行きかう方々にとって、新たなランドマークとなる都市型寺院を目指すという。

計画に当たっては、関東大震災の後、築地本願寺の本堂と同じ年、1934年(昭和9年)に建立された旧佃島説教所(20年4月より「佃島分院」)と、元新月橋際公衆便所を一体として開発し、西仲通りの歩道を拡幅。さらに歩道と連続した青空空地や軒下空間を全周に設け、歩行者の空間の拡充も図った。

外観は、旧分院や公衆トイレで親しまれていた「和のイメージ」を踏襲。木造の建物だった旧分院の瓦や木材を様々な形で活用し、伝統のあった旧佃島説教所への思いも込めて、町並みの記憶の継承を図っている。建物1階には飲食店だけでなく、「赤ちゃんフラット」(授乳室)、バリアフリートイレなどを設置。地域貢献により資する建物建設を推進した。

佃ビルに、テナントとしてカフェと介護付き有料老人ホームが入居することとなった背景には、築地本願寺が「生きている間の絆づくり」を掲げていることもある。建物内の介護付有料老人ホーム利用者や近隣地域住民に対して、僧侶が傾聴活動を行うことで、「佃島分院」を都市開教における新たな伝道教化のモデルとすることも意図している。 

佃ビルの2階に本堂がある

葬儀、墓だけではない寺の事業モデル

また、時代に合った寺院のビジネスモデル構築への思いも強い。寺院は収入のほとんどを葬儀などのお布施に頼っているイメージが強いが、築地本願寺はこの「築地本願寺佃ビル」事業をはじめ自ら事業を行い運営していくことで、余計な心配をせずに信仰の拠点として活動することを目指している。今後はさらに、築地本願寺全体として保有する資産を高度活用し、積極的に運営していくことで、永続的な宗教活動を可能とする構想を持っているといい、佃島分院を擁する佃ビルには、その初めての事例として期待を寄せている。

「葬儀、墓だけに頼らない、寺の事業モデルとして、私たちの取り組みは注目されるのではないかと思っている。寺の一つの形態として広げられれば」(東森氏)。佃ビルの建築費は約17億円で、その大部分は借り入れだという。

社会・地域貢献の事業としての施設に

テナントのうち、3~9階の介護付き有料老人ホーム「ドーミー月島駅前」は、共立メンテナンスが運営する。リゾートホテル事業やシニアライフ事業も手掛ける同社だが、中核事業はビジネスホテル事業と学生寮・社員寮事業だ。同社取締役シニアライフ事業本部長の君塚良生氏によれば、「企業としてここ数年のうちに第3の柱をつくりたいとの狙いから、高齢者向け住宅『ドーミーシニア』に注力している」と言う。

ドーミー月島駅前は、総室数53(1室18~19.8平方メートル)、入居条件は65歳以上で、入居時に自立・要支援・要介護すべての人を受け入れられるように準備しているという。入居者3人に対し1人以上のスタッフを配置し、24時間介護スタッフが常駐。看護スタッフ、機能訓練指導員については日中の配置となる。

君塚氏によれば、築地本願寺から共立メンテナンスへの打診段階で、「佃島分院を拠点に社会貢献、地域貢献の事業がしたい」と要望されたと言う。その要望を受け、「ドーミーシニアの特徴を守りながら、入居者や家族、近隣住民に、ここがあってよかったと言われる施設にしていきたい」とした。なお、寺の本堂の上に施設があるということで、ネガティブに捉えられることはないのかという質問も上がったが、「入居者の考え方によっては大きなプラスになると考えている」と君塚氏は話した。

ドーミー月島駅前の室内イメージ(画像提供:共立メンテナンス)

地元住民に愛されるカフェを目指す

社会・地域貢献の視点でいえば、佃ビルの1階に入る築地本願寺カフェ「Tsumugi はなれ 月島店」の存在も大きいだろう。ツムギ はなれ 月島店はプロントコーポレーションが展開する「和カフェ Tsumugi(ツムギ)」の新店舗で、東京メトロ月島駅7番出口から徒歩約1分とアクセスも良く、通りに面しており、通りかかった人が気軽に立ち寄れる店舗だ。佃ビルの詳細を知らずとも、近隣住民も観光で訪れた人も利用しやすいだろう。 

のれんが印象的なツムギ はなれ 月島店

ツムギは11年から展開している和風カフェで、和のモチーフや色(藍色)を取り入れた居心地のよい空間と、和テイストのドリンクやごはん・スイーツなどを取りそろえる。約160年の歴史を持つ大阪の老舗茶屋「袋布向春園(たふこうしゅんえん)本店」の日本茶を提供し、幅広い層の女性から支持されている。

プロントコーポレーションの常務取締役インキュベーションカンパニー長の杉山和弘氏は、「17年11月にオープンした築地本願寺カフェ ツムギは、築地本願寺の参拝客や築地周辺を散策する人向けに、朝食セットやランチ、オリジナルの茶を提供している。同店舗では『18品の朝ごはん』(16品の小鉢、おかゆ、味噌汁、お茶のセット)の人気が高く、ツムギ はなれ 月島店でも限定商品を用意している」と説明。

築地本願寺カフェ ツムギでは、和カフェ ツムギのメニューをベースに、限定メニューを用意しているが、ツムギ はなれ 月島店はその築地本願寺カフェのメニューの中から一部を抜粋。さらに同店限定メニューの「18品のブッダボウル」を中心にメニューを提供していくという。また「持ち帰りメニューも多数用意し、地元住民に愛されるカフェを目指す」(杉山氏)と言う。 

「ブッダボウルと大福 日本茶の専門店」と看板に示されている通り、和メニューが充実

築地本願寺カフェ ツムギに比べれば、利用者は地域密着型になるのではないかと広報の山下夏子氏。「席数が12席と限られているため、テークアウトメニューの利用など、住民の方々が気軽に立ち寄れる場所として利用してもらいたい。カフェの利用から2階には築地本願寺の佃島分院があると知ってもらうきっかけにもなれば」と語る。

(ライター 山田真弓)

[日経クロストレンド 2022年9月21日の記事を再構成]