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重要性増すマンション名簿 所有者わからず 緊急時に困惑

4月に始まった適切なマンション管理計画を認定する公的制度では「名簿の整備」が基準の1つになった。個人情報が載る名簿をどうつくり、管理するか。現状を探った。

 

「本人だけでなく、家族の携帯電話なども含めた名簿をつくっておけばよかった」。東京都内にある約160戸の分譲マンションの元理事は後悔している。

数年前にある部屋で管理費などが突然滞納されるようになった。所有者は他の人へ賃貸していて、自身は居住していなかった。理事会で調べると、所有者は亡くなったと判明。所有者自身の連絡先しか把握しておらず、相続人である子との連絡に苦労したという。

不動産問題に詳しいさくら事務所(東京・渋谷)の土屋輝之マンション管理コンサルタントは「名簿が未整備状態のマンションは意外に多い」と話す。マンション管理規約づくりの参考に国が示す「ひな型」では名簿の作成や保管を求めている。ただ「緊急時、役に立たない名簿となっている例をよく見る」という。

マンション以外の場所で暮らす家族の携帯電話などを聞き取っていないケースが典型だ。「公的な認定制度で名簿整備を必要とした理由の一つは災害など緊急時に迅速な対応を行うためだ。所有者の安否を確認したいのに、マンションの固定電話しか名簿にないのでは意味がない」と土屋氏。

最近は所有者らが高齢化したマンションが増え、世帯主の半数が60代以上という例は珍しくない。可能ならば名簿づくりの際、災害時の支援を求めるか否かも聞いておくと安心だ。

 

名簿用に災害時の「声掛け」希望を聞き取る例も(東京都昭島市)

名簿用に災害時の「声掛け」希望を聞き取る例も(東京都昭島市)

実例がある。東京都昭島市の昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地は2019年から、賃借人らを含め入居者名簿をまとめる際、災害時に同じ棟の人からの「声掛け」を希望するかも聞き取っている。車椅子を使う家族がいるなど、避難に助けが必要になる可能性が高い世帯を把握するためだ。

宮田次朗理事長は「高齢化が進むところほど、こうした名簿が重要だ。情報は厳格に管理する一方、希望世帯には避難訓練でも必ず声をかける」と説明する。

一方で情報を集めても更新が不十分な場合がある。コンドミニアム・アセットマネジメント(東京・中央)の渕ノ上弘和代表は「売買で所有者が変わる時などを除き、定期的に名簿を更新する管理組合はまだ多くない」と分析する。急病で入院したり、介護施設へ移ったりすれば所有者が変わらないまま長期間、事実上空室となる。こうした空室の多いマンションが水面下で増えているとみられる。

「名簿の内容に変化がないか、年1回程度は見直したい。組合総会のタイミングなどで呼びかけるといい」(渕ノ上氏)。公的な認定制度の基準でも「年1回以上は内容の確認を行う」よう求めている。

名簿を管理会社に任せきりにするのは注意したい。土屋氏は「管理会社に聞かないと、名簿の保管場所もわからないマンションも中にはある」と明かす。普段の管理負担は軽くなるものの、災害時に管理会社と連絡がつかなくなれば、名簿が事実上使えない。

渕ノ上氏は「管理会社任せの傾向は17年の改正個人情報保護法の施行後、目立ち始めた」とみる。扱う個人情報が5000人以下の団体も法規制の対象となった。マンション管理組合も含まれ、個人情報の利用目的を特定し、その範囲を超えて扱わないといった義務を負う。一方、名簿作成などを管理会社へ委託するのは可能。一定の条件を満たせば、所有者ら本人の同意を得なくても情報提供できる場合がある。

委託しても組合には管理会社の監督義務があるが、「煩雑な法的ルールからの解放を優先し、ほとんどの名簿関連業務を管理会社に任せ、監督まで気が回らない組合も多い」(渕ノ上氏)。名簿に記載する情報や更新の頻度といった基本方針は組合でよく話し合って決めるのが原則だ。保管方法も緊急時に組合が独自に利用できるように管理会社と話しておく必要がある。