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ロシア除外「フェアでない」 モスクワ育ちのウィンブルドン女王ルバキナ

ロンドンで開催されたテニス界最高峰の舞台の女子シングルスで優勝を飾ったのは、モスクワで生まれ、2018年に国籍を変更したエレーナ・ルバキナ(カザフスタン)だった。9月の東レ・パンパシフィック・オープン出場のために来日した23歳は偉業を振り返りながら、複雑な胸中を明かした。

 

ウィンブルドンでは国籍で選手を線引きする主催者に男女のツアー統括団体などが抗議し、世界ランキングの基になるポイントの付与を拒否した。そのため女王ルバキナのランキングは20位台にとどまっている。

「勝った瞬間は人生で最高の達成感があった。でもその後、生活が大きく変わったわけではない。ポイントをもらえていれば(シーズン最後に上位8人で争う)WTAファイナルズにも出られたが、それも遠い。ポイントを稼ぐためにハードなスケジュールを組んでツアーを回らねばならず、トリッキーな状況にある」と苦笑いする。

プロのテニス選手は国の代表ではなく、個人としてプレーしている。生まれ育ったロシアの選手が政治的な理由で排除されたことは納得できない。「フェアではないと思う。政治とスポーツは切り離すべきだし、こうした事態が起きるのは悲しい」

身長184センチと大柄な体格を生かしたパワフルなテニスは豊かな将来性を感じさせる。しかし両親は当初、プロになるよりも米国の大学への進学を希望していたという。そんなときに有望選手を探していたカザフスタンから声がかかり、国籍を変更してサポートを受けることになった。

「ジュニアの成績とプロは別物。両親は故障のリスクなどを心配していた。でも私はプロとしてテニスを続けたかった。カザフスタンは私の潜在能力を高く評価し、最初からチームを付けて手厚くサポートしてくれた。国籍を変えるのは簡単な決断ではなかったけれど、そのおかげで今がある」

今年の東レが開かれた有明は昨年の東京五輪で4位に入った相性のいいコート。しかし初戦で敗れてしまった。直前のスロベニアの大会で決勝まで進み、慌ただしく来日した疲れもあったようだ。

「コーチがいて、欧州各地に行きやすいスロバキアのブラチスラバを一応拠点にしているが、新型コロナウイルスが拡大したここ2年余りは住所を持たず、各地を転々としている感じ。安定した成績が残せていないのは、ハードなスケジュールの問題も大きいと感じている」

「ランキングが上がって、ポイント稼ぎに躍起になる必要がなくなれば、出場するトーナメントを選べるようになる。しっかり準備できれば結果も出しやすくなる。色々あっても、私にできるのは最善を尽くすことだけ。来年、もう一度グランドスラムに勝って、今度はポイントを獲得したい」

 

(聞き手は吉野浩一郎)