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住宅ローン返済リスク抑える 金利選択「余裕」見極め

金利変動は住宅ローンへの影響が大きい。足元で住宅ローンの変動金利は歴史的な低水準となっているが、返済は長期に渡る。家計が大きなリスクを抱えないために考えておきたいポイントがある。

「変動金利の住宅ローンなら毎月返済額はぐっと下がる。固定金利で借りたら損なのかな」――千葉県に住む30代の会社員女性は、2021年に3500万円の中古マンションを購入した。住宅ローンを組む際、金利タイプを選ぶのに迷ったと振り返る。

住宅ローンの金利タイプは主に3つある。完済まで金利が同じ「全期間固定型」、当初の一定期間は金利が一定で、その後に改めて金利を選ぶ「固定期間選択型」、一般に半年ごとに金利を見直す「変動型」だ。

最近は固定型の金利は上昇傾向で、低水準の変動型との差が拡大している。住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFS(東京・千代田)によると、調査対象の大手銀行とネット銀行が公表する変動型の最も低い「最優遇金利」は9月まで、平均で年0.4%台が続いた。一方、民間銀行と住宅金融支援機構が提携する全期間固定型の「フラット35」(35年返済・融資率9割以下)は、22年1月は最低で年1.3%台だったが7月から1.5%台に上昇した。

変動型は多くの銀行が1年未満の期間で優良企業に貸す際の短期プライムレート(短プラ)を目安にする。大手銀の短プラは09年以降、変わっていない。固定型は国債の市場利回りなどが目安となり、今年に入って長期の国債利回りの上昇の影響で上がる傾向にある。

金利が約1%違うと住宅ローンの毎月返済額はどのくらい変わるのか。例えば、4000万円を35年の元利均等返済(ボーナス払いなし)で借りる場合、金利が年0.4%なら毎月返済額は約10万2000円。1.5%なら約12万2000円と2万円ほど高くなる。

金利上昇の影響、変動型と固定期間選択型に

一般的な元利均等返済では、返済開始直後には毎月返済額に占める利息支払額の割合が大きく、返済が進むにつれ元金の割合が大きくなる。MFSの塩沢崇取締役は「35年の元利均等返済では当初10年で利息全体の約半分を支払うため、返済初期の金利が低ければ利息支払いの総額を抑えられる」と話す。

ただ、忘れてはいけないのは将来の不確実性がもたらすリスクの違いだ。変動型は目安の金利が上がれば返済金利も上昇する仕組みだ。固定期間選択型も固定期間終了後に金利変動の影響を受ける。一方、全期間固定型は一般に金利が高めだが、将来の金利は上がらない。

公認会計士で住宅ローンのコンサルティングも行う中村岳広氏は「金利タイプの選択は、金利上昇リスクにどう対処するかを決断する意味がある」という。個人が取れる対策は主に2つだ。1つ目は固定型を選択する。2つ目は、変動型で借りる場合、金利上昇時には繰り上げ返済などで残債を減らすことだ。

判断の分かれ目は、もし金利が上昇し毎月返済額が増えたら家計が耐えられるかどうかだ。将来の金利を予測するのは極めて困難なので、固定型の毎月返済額を基準に考える。もし固定型の金額を上回ると家計が立ちゆかなくなるなら、それ以上は返済が増えない固定型の方が安心だ。一方、金利が上昇しても繰り上げ返済などに充てる資金の余裕があれば変動型が選択肢になりそうだ。冒頭の会社員女性は「教育費がかかる時期に金利が上昇すると対応できない」と、全期間固定型を選択した。

日銀は大規模緩和を維持する方針だが、政策変更や市場金利の動向は個人の力が及ばないところで決まる。中村氏は「金利が今後どうなると思うかよりも、家計がリスクに耐えられるかをよく考えることが大切だ」と話している。

金利低下・疾病保障 ローン獲得競争激化

変動型の金利が極めて低くなった背景は銀行の住宅ローン獲得競争の激化だ。auじぶん銀行はグループ内の電気と通信サービスを契約すれば変動型の金利が最低年0.2%台になるキャンペーンを6~9月に実施した。「5月に比べ1カ月の申込件数が平均で2割程度増えた」という。グループ内で金利引き下げ分の負担を分担する割引と合わせることで「銀行単独では難しかった低い金利を提示できた」(同行)。

競争をけん引してきたのはネット銀行だ。最近ではグループ企業を住宅ローン競争に生かす動きが目立つ。

住信SBIネット銀行はSBI生命保険と連携し、契約者に万一のことがあった際に残債がなくなる団体信用生命保険を強化。住宅ローン金利の上乗せなしで、けがや病気で一定期間働けなくなった際に残債がゼロになる保障が付く。40歳未満はがんなど3大疾病で一定の状態になった際に残債が50%になる保障も金利の上乗せなしで付けられる。

ネット銀が契約者を増やす中、影響を受けたのがメガバンクなど都市銀行だ。ニッセイ基礎研究所の福本勇樹金融調査室長によると、住宅ローンの総貸出残高に占める都市銀行のシェアは2014年3月末に36%だったが22年3月末に27%に低下。その分、ネット銀など「その他の銀行」や地銀のシェアが増した。

野村証券の高宮健リサーチアナリストは「メガバンクは成長性と利ざやを重視し海外事業に軸足を移す中で国内融資のシェアが低下した」とみる。ただ過去数年で経営の効率化が進み「住宅ローン金利を下げても従来より利益を確保できる状況になった」(高宮氏)。みずほ銀行は21年度にネットで申し込む変動型の最優遇金利をネット銀並みの年0.3%台に下げた。

不動産業者経由での契約者獲得でもネット銀の存在感が増し、銀行間の競争が激化している。こうした中、三井住友銀行は契約を検討する人へのコンサルティングに力を入れる。借り入れ後のキャッシュフロー表を作成し、教育費や老後資金なども助言。住宅購入の入り口となる不動産業者にもセミナーを開く。三菱UFJ銀行も不動産業者との連携を密にしコンサルティング営業を強化する。

ニッセイ基礎研の福本氏は「住宅ローンの獲得競争は今後も続くだろう」とみる。他の商品の販売機会や給与振込口座の獲得につながるためだ。

ただ、すでに借りた人は銀行間の競争に関わらず短プラなど目安の金利が上がれば返済金利が上がる。「一般に金利上昇時は長期の金利の動きが早く、変動型から固定型に機動的に変えるのは難しい」(福本氏)。返済計画は慎重に立てたい。

夫婦で契約、死亡や離婚時に返済続くことも

共働き世帯の増加や住宅価格の上昇に伴い、夫婦で一緒に住宅ローンを借りる人が増えている。三井住友信託銀行「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」が2022年1月に実施した調査によると、20代では約2割、30代と40代では約1割が「ペアローン」を利用している。

夫婦で住宅ローンを借りる方法は主に3つある。まず「ペアローン」は夫と妻が同じ金融機関で1本ずつローンを契約する。2人がそれぞれ債務者として返済義務を負い、別々に返済する。多くの金融機関では、互いに相手のローンの連帯保証人になることを条件とする。連帯保証人は、債務者が返さない場合に代わって返済義務を負う。

ほかの2つは夫婦の収入を合算して1本のローンを借りる方法で、「連帯債務」と「連帯保証」がある。連帯債務は片方が主債務者、もう片方が連帯債務者として契約し、2人とも同等の返済義務を負う。連帯保証の場合には、片方が債務者、もう片方が連帯保証人になる。

ペアローンと連帯債務は夫も妻も債務者となるため、所有権は共有名義になり、住宅ローン控除も各自が利用できる。一方、連帯保証は、頭金を出すのが債務者1人なら所有権は債務者に限られる。住宅ローン控除も債務者のみが利用できる。

これらの方法では夫婦それぞれの融資可能額を足し合わせてローンを組むため、多くの資金が借りられる点は利点だが、夫婦2人で返済の責任を負う契約になることは注意が必要だ。基本的に融資額は夫婦2人が働き続ける前提で審査される。片方の収入が大幅に減れば、返済に影響が出る可能性がある。

夫婦で借りる際に注意したいのは、世帯の収支が将来変わることを想定して借入額を検討することだ。例えば、子どもが産まれて育児休業や短時間勤務などで片方の収入が減ったり、子どもの進学先によって教育費が膨らんだりする可能性がある。今は2人で働いていても、先々の収支の変動リスクに備え、借りすぎないことが重要になる。

万一、片方が死亡したり、働けなくなったりした場合の備えも考えておきたい。債務者は団体信用生命保険に加入し、亡くなった際などには保険金で残債が返済される。ペアローンでは夫婦それぞれが団信に入るが、完済されるのは亡くなった人の住宅ローンだけだ。

連帯債務の場合は原則、主債務者が団信に加入する。どちらが亡くなってもローン残高が全額払われる「連生団信」を扱う金融機関であれば、金利を上乗せして連帯債務者も団信に加入できる場合もある。連帯保証の場合は、連帯保証人は団信の対象外だ。連帯保証人が亡くなってもローンはなくならない。こうした場合に生命保険で備えることも選択肢になるだろう。

事前の備えが難しく、夫婦で借りる場合に最も問題になるのが離婚と言われる。離婚によって婚姻関係は終了しても、ローンの契約は残り、返済は続く。このため、ローンの返済方法や自宅の所有権について協議が難航しやすい。

ローンが残る自宅がある場合、離婚時には、売却して残りのローンを返済するか、どちらかが住み続ける場合は夫婦2人の債務から単独債務に変更するためにローンの条件を変更したり、借り換えたりする方法がある。ただし、もし自宅の時価が残債を下回る場合には売却しても離婚後に返済が続く懸念がある。条件変更や借り換えについては、その時点の債務者の収入やローン残高などで金融機関が判断するため、実現するかどうかはケース・バイ・ケースだ。

繰り上げ返済は事前に効果確認を

住宅ローンは、元本の一部を前倒しで返済すると将来の金利支払額を減らせる。ある大手銀行は「住宅ローン減税の期間が終了するころ繰り上げ返済する人が目立つ」という。

住宅ローン減税は2022年に新築で省エネ機能などが基準を満たす住宅に入居する場合で年末残高が4000万~5000万円、その他の住宅では3000万円を上限に0.7%を13年間、所得税と住民税から差し引く。19年9月までは控除期間が10年だった。このため返済開始から10年ほどで繰り上げ返済が増えるという。

変動金利で借りている場合は繰り上げ返済で残債を減らせば金利上昇リスクも小さくなる効果が見込める。主に2つの方法がある。まず、毎月の返済額は変えず返済期間を短くするのが「返済期間短縮型」。一方、返済期間を変えずに毎月返済額を減らすのが、多くの銀行で「返済額軽減型」と呼んでいる方法だ。

元利均等返済では、返済期間短縮型の場合、返済開始から早い段階で繰り上げ返済をするほど、期間を短縮し金利の総支払額を減らす効果が大きくなる。返済額軽減型は、繰り上げ返済額をその後の期間全体に均等に割り振るため、毎月の元金返済が少しずつ減り、その分だけ金利の支払額も減る。金利の支払額を減らす効果は返済期間短縮型の方が大きいが、返済額軽減型は毎月の家計負担を抑えられる利点がある。

ただ、繰り上げ返済を考える際は注意したいポイントがある。まず、繰り上げ返済の結果、預貯金を減らしすぎないようにしたい。住宅ローンアドバイザーの淡河範明氏は「失業や収入減少に備えて6カ月分程度の生活費を確保したうえで、65歳時点で十分な老後資金を残せる見通しが立つ場合は繰り上げ返済してもよい」とみる。

住宅ローンを借りる際は団体信用生命保険に加入する。万一のときに残債を返済する必要がなくなることも考えれば「将来に必要な預貯金を減らしてまで繰り上げ返済を急ぐことはない」と、淡河氏は話す。

いったん期間短縮型で繰り上げ返済すると、多くの銀行ではその後に家計が苦しくなった場合に返済期間を延ばして毎月の負担を減らすことは難しくなることも知っておきたい。

もう一つ、変動金利の場合に注意したいのが、金利が上昇すると「返済額軽減型」で繰り上げ返済しても毎月の返済額が減らない可能性があることだ。

一部の銀行を除き、元利均等返済では「5年ルール」が設けられている。返済金利が上下しても5年間は毎月返済額を変えない決まりで、金利上昇時に月々の家計が大きく圧迫されないようにする。ただ、総返済額を抑えられるわけではなく、5年間に金利が上昇した際は毎月返済額の範囲で利息を優先して払うため元本の返済が遅れる。

返済額軽減型の繰り上げ返済では、残債の額と期間、返済時点の金利を基に毎月返済額を再計算する。その際は5年ルールの上限額が適用されない銀行が多い。このため、金利が上昇して元金返済が遅れている状態で繰り上げ返済すると、当初の予定より大きい残債とその時点の金利で計算した結果、毎月返済額が元の額より増えてしまうことがある。繰り上げ返済の手続きは新しい毎月返済額や返済期間をよく確かめて実行しよう。

(川本和佳英、大賀智子)