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媚びずに力を蓄える 林真理子流「男社会」の生き抜き術

――日大で初の女性理事長に就いて3カ月がたった。

「大学の職員からしたら、突然わけのわからないオバサンがきて『なんだこりゃ』となっているはず。まずは私を知ってもらおうと 自著『小説8050』を450冊買った。ひきこもりを描いた社会派の作品だ。教育に近いテーマなので是非お読み下さい、と手紙を添えて、パートも含めて本部で働く全員に配った」

 

味方をつくる

 

「いかに味方になってもらうか。『田中真紀子方式』は絶対にしない。組織が伏魔殿だとか言えば世間は面白がって拍手を送ってくれるかもしれないが、内部の支持は得られない。その点、小池百合子・東京都知事は職員を上手に立てて、頭の良い方だなあと」

「ちゃんとした人材もたくさんいる。ほころびはあるが、そこを正すのが私の役目だ。『小池方式』で味方をつくりながら、戦うべき時は戦いたい」

――作家デビューは40年前、男性中心だった当時の文壇とどう向き合ったか。

「女性の本音を書いた『ルンルンを買っておうちに帰ろう』でデビューすると、『林真理子は男性の女性に対する幻想をことごとく破る』『女性がこんな薄汚いことを書くなんて信じられない』と酷評された。男性から本当に嫌われて、びっくりした」

「でも、自分が女性だから文学賞で落とされるとか、男性選考委員が喜びそうなことを書こうとは思わなかった。自分の実力が足らないだけ。だから次はもっと良いのを書く。努力、ひたすら努力。そしたらちゃんと賞をくれた」

 

元理事長逮捕を受けた会見で頭を下げる日大関係者(2021年12月)

元理事長逮捕を受けた会見で頭を下げる日大関係者(2021年12月)

「そうやって自分の努力に帰結するから、フェミニストからは『裏切り者』と思われているかもしれない。社会構造が悪いから変えてやるんだとは思わず、自分が偉くなれば理不尽な目に遭わなくて済むと考えた」

――そんな自身の立ち位置をどう見るか。

「フェミニストじゃない。けれど、もちろん全部が女性たちの努力不足とは思わない。ジャーナリスト伊藤詩織さんの性被害事件や、女性だからといって医学部入試で落とされるのは、本当に腹が立つ。そういう時は堂々と異を唱える」

「『(男社会に媚(こ)びて特権的な地位を得る)名誉男性』と言われたこともあるが、それも違う。おっちょこちょいだからとへりくだることはあるが、男性にすり寄ってきたつもりは毛頭ない」

「長幼の序を重んじ、段階を踏むタイプではあるなと思う。46歳で直木賞の選考委員になったとき、上座で井上ひさし先生や渡辺淳一先生が文学論を戦わせていて、緊張で声がうわずった。そこで無理に意見を押し通そうとは思わなかった。でも、年齢を重ねて自分が上座に座るようになってからは、はっきり、たとえ嫌われても意見を言う」

 

ウサギとオオカミ

 

「そんな生き方もあるんじゃないか。企業社会でも最初はウサギになってみる。新入社員で回りとバチバチやっていたら、誰も何も教えてくれない。そうして力を蓄えたらオオカミに変身する。きちんと生きていれば、ちゃんとキャリアは開けると思う」

――マンモス大学の構造改革は火中の栗を拾うようなものでは。

「理事長に就いて以来、緊張で疲れ切っている。言いたくないことも言うし、お願いごとや協力してもらうため、毎日人間力を試されているようだ。私より、優秀なプロ経営者が良かったのではとも考えるが、それじゃあ皆反発したんじゃないか。これまで世間にたたかれ、落とし穴がいっぱいある人生を歩み、人とどうやって接するかを学んだ。だからこそできることを地道に進めたい」

「ちなみに日大本部は各階に2つずつ女性トイレがあるが、1つは和式。『洋式に変えたい』と言ったら女性職員から感謝された。今まで言える人がいなかったのだろう。セコいようだが、まずトイレから変えていく」

(聞き手は佐々木宇蘭)