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変化の時代の大学教育 「ルール破れる人」育てる ICU理事長 米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授・竹内弘高氏

人工知能(AI)をはじめとする情報技術の活用やイノベーションが成長のエンジンとなる時代が到来し、その担い手を育てる高等教育への関心が高まっている。グローバル化も一段と進むなか、大学はどんな人材を送り出すべきか。産業界や国際社会のニーズを熟知する有識者に聞いた。

 

1980年代までの日本は製造業を中心に人材育成に成功してきた。幼少期は家庭、大学までは教育界、卒業後は会社がベルトコンベヤーのように継ぎ目なく人材を育てた。決まった正解を導く偏差値競争の産物は規律重視の安定志向の人材だ。

しかし急速に技術が進展する現代で求められる人材像は真逆だ。新興企業の米モデルナがわずか数カ月で新型コロナウイルスのワクチン開発を果たした。

ワクチンになぞらえると、今の時代は「RNA」の要素を持つ人材が必要だ。Rは「rule-breaking(規則を破る)」、Nは「non-conforming(体制に適合しない)」、Aは「antithesis(アンチテーゼ)」だ。

まずは産業界が変わるべきだ。時代のロールモデルとなる人を積極的にトップに登用するなど人事制度を見直し、忖度(そんたく)を重んじる風潮を変える。需要側の経済界が働きかければ教育界の変化も早い。

米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で教え始めた1976年と比べて、大多数の学生の進路は大企業から新興企業に様変わりした。リスクを負ってイノベーションを起こすことこそ、今の米国の典型的な成功モデルだ。

一方で日本はいまだに大企業の窓際族でも高収入を得られれば幸せと思っている。挑戦を恐れる風潮が続けば、バブル崩壊後の「失われた30年」は「失われた3世紀」になりかねない。

官僚の養成を担ってきた東京大をはじめ、国立大はアントレプレナー(起業家)教育など新たな時代に合わせた教育を強化すべきだ。最近は危機感を持った若者が東大を蹴って海外大に進んでいる。変革の好機を逃さなければ日本は再び世界で飛躍できる。

理事長を務める国際基督教大学(ICU)では、批判的思考を身につけるため、哲学や文学を含め幅広い知識を横断して学べる体制を重視している。米国では学部で教養を身につけ、大学院で専門を深めるのが主流。学部の教員はオールラウンダーとして人間形成できる力が必要だ。

(聞き手は下川真理恵)