金利の急速な上昇が世界を揺さぶっている。米国の10年物国債利回りは28日、2010年以来12年半ぶりに4%を上回り、世界の株安やドル高につながった。金融引き締めや財政拡張を警戒した国債の売りが続けば、混乱が危機につながる危険性も高まる。英国の中央銀行は金利上昇を止めるための国債購入を余儀なくされた。
「私は『まぬけな楽観主義者』だった。破壊的なプロセスになろうともインフレ抑制のみに集中しているようだ」。米運用大手インベスコのクリスティーナ・フーパー氏は28日付のメモに米連邦準備理事会(FRB)の引き締めへの警戒感を記した。
市場の一部で浮上していたFRBが利上げの手を緩めるという観測は後退し、金利上昇(債券価格の下落)を見越して国債を売る動きが止まらない。8月初めに2.6%程度だった米10年物国債利回りは28日のアジア時間に一時4%を上回った。
FRB高官からはインフレ抑制への決意を示す発言が相次ぐ。27日にセントルイス連銀のブラード総裁は物価が高止まっても物価目標を2%から引き上げることはないと強調。米国の労働市場の強さを強調して金融引き締めを長く続ける考えを鮮明にした。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁も「現状の引き締めペースは適切」と急ピッチの利上げに自信を示した。
欧州でも債券市場の混乱が続く。ポピュリズム(大衆迎合主義)色の濃い右派政権が誕生する見通しとなったイタリアの10年債利回りは28日、一時4.9%まで上昇した。トラス政権の減税策で大荒れとなった英国市場では同日、英イングランド銀行(中央銀行)が国債購入を発表、前日に5%程度だった30年債利回りが4%を下回る水準に低下する場面があった。
金利上昇が実体経済にもたらす影響は強まっている。英国では住宅ローン金利の急上昇を受けてロイズ・バンキング・グループ傘下のハリファクスが手数料と引き換えに低金利で借りることができる住宅ローンの取り扱いを停止した。米国では30年固定の住宅ローン金利は足元で6.29%と14年ぶりの高水準となった。
株式市場では企業業績の悪化を警戒して株式を売却する動きが強まってきた。28日のアジア市場では、日経平均株価が前日比397円安の2万6173円と7月上旬以来の安値に沈んだ。一時、2万6000円を下回る場面もあった。下げのきっかけは、一部メディアで「米アップルが新型スマートフォン『iPhone14』の増産計画を撤回した」と伝わったこと。利上げによる需要減退が問題とされ、世界的な景気悪化が意識された。
JPモルガン・アセット・マネジメントの前川将吾氏は「今年前半の株安は、金融引き締めを受けた高PER(株価収益率)銘柄などのバリュエーション調整にとどまっていたが、今回は金利上昇が幅広い企業の業績の重荷となり実体経済の悪化を招きつつある点でより深刻だ」と話す。
金融市場ではリスクを避けるために基軸通貨のドルを買う動きが強まり、ドル高が加速するスパイラルも生じている。アジアの通貨は28日、対ドルで韓国ウォンは13年ぶり、中国・人民元は14年ぶり、タイ・バーツは16年ぶり、マレーシア・リンギは24年ぶりと歴史的な安値を更新した。
「このようなドルの上昇が歴史的に金融・経済の危機をもたらしてきたことに注意が必要だ」。米モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソン氏はFRBの急激な金融引き締めとそれに伴うドル高に警鐘を鳴らす。
過去の市場の急変時には中銀が金融緩和に乗り出し支えてきたが、今回は中銀の支援は期待しにくい。インフレの痛みを和らげるための財政出動が一段のインフレ要因になるといった政策対応の難しさも市場の警戒を強めている。
(佐伯遼、ワシントン=高見浩輔)

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