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組織的万引きが急増 米国・ニューヨーク市

大量の商品を盗み、それを路上やネット商取引で売りさばく組織的犯罪の増加が特に目立っている。大規模盗難は経営にも響くとあって、小売店は商品の陳列棚に鍵を掛けるなどの防御策を講じるが、市民の間では犯罪増への不安も拡大、生活の質の低下を懸念する声が上がっている。

「週に1000ドル(約14万円)から1500ドル相当の商品が盗まれる」。ブルックリンのスーパーマーケットを経営するアイバン・アーグエロさんは今年の夏あたりから万引きが急増したと嘆く。その9割は大量の商品を盗む組織犯罪とみられるという。近所の大手ドラッグストアチェーン2店が夏に閉店した後、そこで盗みを働いていた複数の犯人グループがアーグエロさんの店を狙い始めた。

組織的な大量万引きは、ニューヨーク中で増えている。高級住宅街と呼ばれるマンハッタンのアッパーイーストサイドも同様だ。SNS(交流サイト)のフェイスブックにあるこの地域のグループで万引きに遭遇したことがあるか筆者が質問したところ、2日間で80件以上の書き込みがあった。

「大手スーパーで大量の洗濯洗剤をスーツケースに入れて盗んでいった人を見た」。「たくさんの化粧品を紙袋に入れた人がお金を払わずに出て行った」。「パックされた精肉を200ドル分くらいバックパックに入れていた」。万引きを目撃した市民の多くが、店員や警備員が万引き犯を捕まえたり尋問したりせず、黙認していることに驚き、恐怖を感じるという。

インディアナ大学小売業調査教育センターのディレクター、ジョン・タルボットさんは「小売業者は従業員の身の安全を守ろうとする。訴訟のリスクも避けるために、万引きを目撃しても犯人を捕まえる行動を控えるよう指示している」という。

自衛のため、商品棚に鍵を掛ける小売店が増えている。シャンプー、歯磨き粉、アイスクリームなど8割方の商品の棚に鍵が掛けられ、購入するには売り場のボタンを押し、店員に鍵を開けてもらう。「ヒゲそり1本買うのに5分以上かかることもある。ネットで買った方が簡単」、「すべてのお客を盗っ人とみなす対応が許せない」などとして、不満を感じる買い物客も少なくない。

一方でブルックリンのスーパーのアーグエロさんは「常連客が多いので、商品に鍵を掛けることはできない」という。対策として、正面のドアを閉鎖して、お客の出入りを脇の扉一つに集中させ、カメラと大型のモニターをその近くに設置している。犯人を捕まえなくても画像に記録して、警察に報告している。

「現行犯で逮捕しても、マンハッタン地区検察が万引きを軽犯罪とみなして起訴しないから常習犯が盗みを繰り返す」。マンハッタンで勤務するニューヨーク市警察官はこう嘆く。同市警察(NYPD)によると、金額1000ドル以下の軽窃盗犯とよばれる犯罪の被害届は今年年初から9月中旬までに8万2000件と前年同期比約42%増えた。

一方で、マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事は「ナイフや銃などの武器を持たない軽窃盗犯は起訴の対象にしない」としており、万引きの常習犯が増える原因と批判する市民も多い。

オンライン取引が拡大し、盗んだ商品を現金化しやすくなっていることも大規模な万引きが増える背景になっている。ニューヨーク州とNYPDが2019年から22年にわたり共同で捜査した事件では、41人が組織的万引き犯として起訴され、総額380万ドル相当の盗品を電子商取引大手のイーベイで売却していたことが明らかになった。

盗品のオンライン取引を防ぐため、ニューヨーク州議会のブラッド・ホイルマン上院議員とブラッグ検事は今年5月、アマゾンやフェイスブック、インスタグラムなどで、盗品を売るネット販売業者への取り締まりを強化する法律を提案した。

万引き増加はニューヨークだけでなく、全米の都市で問題視されつつある。全米小売業協会(NRF)の統計によると20年には、小売業者が獲得した10億ドルの売り上げに対し、組織的小売犯罪による損失が約72万ドルに上った。

打撃は小売業界の金銭的損失にとどまらない。「80歳の母は万引きを目撃して以来、買い物に行くのを怖がっている」「ものを盗んでも逮捕されないなら自分も盗もうという10代の息子の言葉にぞっとした」といった声もあった。

ニューヨークでは、銃犯罪や地下鉄での暴力事件も増えている。コロナ禍から立ち直りつつある大都市は街の治安という古くて新しい課題に直面している。

(ニューヨーク=伴百江)