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富良野は「第2のニセコ」 外資、国内勢と陣取り合戦 海外マネー席巻㊦

国内勢中心に古くから観光開発を進めてきた富良野は用地に限りがあり、水面下では陣取り合戦の様相を呈している。

JR富良野駅から車で10分ほどの場所にある「北の峰エリア」。スキー場に近く、真新しい建物が並ぶ。地元タクシー運転手の男性は「ここ数年でがらりと雰囲気が変わった。違う街のようだ」と振り返る。

2020年末に開業した高級コンドミニアム「フェニックス富良野」は1部屋あたり3000万円~2億円弱と高額だったが19年中に完売した。22年末に引き渡す2棟目の「フェニックスウェスト」は全室の6~7割が売れた。

フェニックス富良野を手がけるZekkei Investment Management(札幌市)の石丸修太郎氏は「10年来、シンガポールや香港の中国系富裕層が主な買い手だ」と語る。

物件見学せず、オンラインで即決

富良野で海外投資家に不動産販売するオールアバウトフラノ(北海道富良野市)の池野正樹社長によると「オンライン決済の普及や新型コロナウイルス感染拡大による渡航制限により、物件を現地で見学せずに投資する」という。

香港やシンガポールの富裕層による富良野投資は10年代前半から始まった。オーストラリア人らが税金対策目的から香港に法人を設立し、土地を買う動きも目立った。香港に対する中国本土の圧力が増すにつれ、香港やシンガポール在住者が日本法人を立ち上げて購入する形に移行している。

富良野市内の北の峰エリアにはコンドミニアムや建設中の建物が並ぶ

オールアバウトフラノによると、22年に海外勢が設立した日本法人と3件の土地購入を結んだという。12年にはゼロだった。日本法人の設立には土地取得後の開発計画の立案や販売がしやすい利点もある。

国土交通省の基準地価(22年7月1日時点)によると、北の峰エリアにある「富良野市北の峰町1981番62」では1平方メートルあたり2万8100円だった。10年前から6割上昇したが、地価はなお北海道倶知安町の3分の1程度にとどまる。値ごろ感から富良野に関心を寄せる海外投資家は多い。

メインの観光シーズンが冬に限られるニセコと比べた富良野の強みは、夏の観光客が見込める点だ。冬の良質なパウダースノーに加え、夏もラベンダー畑などを目当てに訪れる。19年7月の延べ宿泊者数が約8万6000人と、20年1月の8万5000人前後と遜色ない。通年で利用が見込める。

国内勢も開発してきた。西武ホールディングス(HD)のグループ会社が運営する富良野プリンスホテル(現在休業中)や新富良野プリンスホテルは、スキー場を含め広い土地を所有する。アクセスや景観は抜群だ。ビジネスホテルも市内に順次、オープンしている。

地価上昇、新たな別荘の売りも

新型コロナ前は用地不足で開発が一巡したとの声が出ていたものの、様相は変わりつつある。売買価格の高騰を背景に、建設済みで家具家電も備えた貸別荘オーナーによる売り案件が出始めたからだ。オールアバウトフラノが北の峰エリアで販売する物件は、敷地面積300平方メートル前後。価格は1億円を大きく上回る。

地元はひとまず歓迎している。富良野市の担当者は「開発が進むことで地元の内装事業者などの受注につながればメリットだ」と述べた。仕事で富良野市に通う女性は「日本人の宿泊施設経営者が外国人に売ったと聞いた。有効活用できるならいい」とみていた。

「土地が上がった地域では家を売却して富良野から出て行く住民もいる。負の側面もある」と漏らす男性もいる。

1万平方メートル級の土地を求める外資ホテルなどが購入するには小さいものの、海外の個人投資家が手がけるには価格帯や面積が見合っているという。池野社長は「北の峰エリアのメイン通りには1000~1500平方メートルでもコンドミニアムを建てたい投資家は多い」とみる。

大資本と個人投資家が相次ぎ投資し、富良野を第2のニセコへと育てている。

(神野恭輔、久貝翔子)