· 

「勉強しなくていい」の真意 元サッカー選手 大久保嘉人

子連れ単身赴任では家事も育児もこなしたが、帰ってくると妻が何でもしてくれる。あんなにこだわった料理もあまりしなくなり、得意料理になった「タチウオの煮付け」もまだ作っていない。

 

とはいえ、変化はある。妻の不在時などに洗濯物をたたんだりするようになった。干すのはあまり好きではないが、たたむのは好きだ。大阪で家事を1人でこなした経験があるから、面倒なことや大変なことが何なのかわかるようになった。だから気づいたら自主的に黙ってやる。

ただ妻から「やって」と言われるのは嫌。そう言われるとやりたくなくなる。あくまで自主的にやることが自分の哲学だ。

以前はタオルを好きなだけ使っていたが、大阪時代に自分で洗濯をした経験から、タオルはかさばって扱いにくいものだということが身にしみてわかった。だから戻ってからはタオルを使う頻度を減らした。同じタオルを乾かして使っていると、妻が仰天した。

テレビのリモコンも、昔は近くにあっても「取って」と言って妻や子どもに取ってもらっていたが、今はリモコンを取ってからソファに座る。どうやら自分も子連れ単身赴任で成長したようだ。

 

子どもたちには怒らないようにしている。高2の17歳から幼稚園児の5歳まで、4人の子どもがいる。全員男の子で上3人はサッカー少年。家の中でサッカーをしたり、4人そろうととにかくにぎやか。だが多少やんちゃをしても怒らない。

自分が子どもの時、怒られるとやる気をなくしたからだ。一方で褒められるとうれしくて、やる気が出た。やる気が出ると挑戦し、成功につながると自信もつく。そもそも怒った方がいい人なんていないのではないか。自分は褒めてのびのび育てたい。

だから勉強をしたがらない子どもには「勉強なんてやらなくてもいい」と言っている。妻の意見は異なるようだが。大阪での三男との父子生活では宿題をみてあげないといけなかった。自分は勉強は苦手。子どもも自分も問題を解けないので「答えを見ろ」といって、とりあえず空欄を埋めたこともあった。

だが後々苦しむのは子ども自身だ。それに気づけば自発的に勉強をするはず。やらせようとしても意味がない。自分から必要性を感じて勉強をするように仕向けることが大切なのではないか。

親が思っているより、子どもはしっかりしている。はじめは「できない」と思っても自立すればできるようになる。中学生の時から親元を離れてサッカー留学をした自分がそうだった。小学生の時は母がすべてやってくれたが、中1から自分の部屋を掃除したり、洗濯もした。「自分でもできる」という経験が不安を払拭し、どこでも生きていけるようになる。でも親がいるとどうしても子どもは甘えてしまう。だから子どもにはできるだけ自立する経験をさせたい。

親元を離れたことで始まった挑戦が、いろんな挑戦につながった。自分はもともと人前に出ることがいやな、あまり自信のない子どもだった。サッカーも自分よりもっとうまい人がいると思っていた。中学生の時から自立して始まった挑戦によって自信がつき、プロのサッカー選手になった。

完璧でなくてもいい。適当でもいいから挑戦する。子連れの単身赴任もそうだったが、行動してみないとわからない。家事でも育児でも何でも、小さなことでもいいからやり始める。

子どもたちには自分のようになってほしい。以前はユーチューバーでも何でも、子どもたちがやりたいことをやればいいと思っていた。今は上の3人はみんなサッカー選手になりたいという。それなら自分が這い上がってきたように、競争を経験してほしい。

できれば何でも話せる友達のような父子関係でありたい。今はあまり子どもたちとサッカーをする時間が持てず、するときは遊ぶ程度。サッカー選手だった自分がコーチのように振る舞うことはしない。何かきいてきたら教えるくらいだ。

 

高2の長男は昨年フランスに短期間サッカー留学をし、中1の次男と小5の三男もスペインに遠征した。文化が違うところでどんな経験をしてくるのか。どんなふうに成長するのか。ぬるま湯につからせるよりよっぽど楽しみ。これからもいろんな経験をしてほしい。

 

おおくぼ・よしと 1982年福岡県生まれ。2001年、セレッソ大阪加入。国内外のクラブを経て21年にセレッソ大阪に復帰、現役引退。J1リーグ最多得点記録保持者。21年「俺は主夫。職業、現役Jリーガー」を出版。

 

大久保嘉人さんの連載は今回で終わりです。