夏場の株高で、押し目買いを入れた株価水準が高まっただけではない。海外では金利急騰で信用不安懸念が出始め、世界で稼ぐ主力株の業績悪化も意識され始めた。「逆張り」が報われないシナリオへの目配りが必要な局面だ。
「ソニーを買い増し」「トヨタを買ってみた」。26日、短文投稿サイトのツイッター上でこんな投稿が相次いだ。ソニーグループ株は2020年12月以来、約1年9カ月ぶりの安値をつけ、トヨタ自動車株も半年ぶりの安値に沈んだ。この日、下落が目立った主力株を買ったのが個人投資家だ。
個人は株価が下げれば買い、上がれば売る「逆張り」投資を好む。日経平均株価が600円超下落した12~16日では、個人が現物と先物を合計4237億円を買い越すなど、この傾向が鮮明だった。
個人の懐にも比較的余裕がある。信用取引の買い方の含み損益を示す信用評価損益率は、16日申し込み時点でマイナス10%程度だった。追い証(追加担保の差し入れ義務)発生目安のマイナス20%を大きく上回る。
今年は逆張り投資が奏功していた。3月や6月の株安局面で信用買い残は急増。日経平均が反転すると買い残は減り、利益確定が進んだ。この成功体験が個人の買い意欲の強さの背景だが、「今回は失敗するかもしれない」(松井証券の窪田朋一郎氏)との声がある。
理由の一つが押し目買いの水準が切り上がったことだ。夏前までは日経平均が2万7000円台になると利益確定売りが広がった。ところが夏場に株価がレンジを上抜け2万9000円まで上昇したため、「2万8000円台から買いが入り、その後買い下がっている投資家が多い」(窪田氏)。
より重要なのは、世界的な株安の要因の変化だ。年前半は米国の利上げに伴う割高感の修正がテーマだった。予想PER(株価収益率)など投資指標からみて割高な水準まで買われた成長株を中心に売られた。
現在の株安は「金利急騰による海外企業の信用不安リスクを織り込みつつある」(野村アセットマネジメントの石黒英之氏)。欧米で企業倒産が広がれば、海外で稼ぐ日本企業の収益と株価にも長く悪影響が及ぶ。
このリスクを測るうえで、石黒氏は米国の家計が保有する金融資産の変化に注目する。家計金融資産が前年比マイナスになる期間と、信用リスクの警戒度を示す米低格付け(ハイイールド)債の米国債対比の上乗せ金利(スプレッド)が高まる期間は重なる。4~6月期に米金融資産は前年比マイナスとなった。
08年のリーマン・ショック以降、景気悪化懸念が広がる局面では世界の中央銀行が金融緩和に動き、相場を支える「中銀プット」があった。だが、米連邦準備理事会(FRB)は景気を犠牲にしてでもインフレ退治をする姿勢を鮮明にしている。中銀プットはもはや期待できない。
著名個人投資家、DAIBOUCHOU(ハンドルネーム)さんは「今は相場に合わせて動くのではなく、下がっても耐えられる範囲で投資し、じっくり持ち続けるべきだ」と主力株の逆張りには動かないと明かす。これまで逆張りで成功してきた個人だが、先行き不透明感の強さから同様の慎重姿勢が広がるかもしれない。
(ESGエディター 松本裕子)


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