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2%達成でも緩和頼みなお 「例外日本」脱デフレ遠く インフレが問う(4)

値上げ幅は今後明らかにする。モデル改良にあわせて最大19万円値下げした4月から半年たらずでの軌道修正に切迫感がにじむ。

 

8月にはマツダが主力小型車など2車種の価格を約3%上げると発表した。大半の仕様で内外装やエンジンなどの大幅な機能改良はなく、国内市場では異例の値上げとなる。三菱自動車もミニバンなどを同じ性能のまま2%値上げした。

自動車メーカーは国内価格を実質的に据え置いてきた。重い腰を上げさせたのは長引く資源高だ。

8月の企業物価は前年同月比9.0%上がった。伸び率は4月に9.8%と2ケタに迫る伸びとなり、その後も高水準が続く。

物価高・値上げを考える

価格転嫁を家計が受け入れるかは見通せない。消費者物価上昇率は4月に2%台に乗った。8月は総合で3.0%と、増税局面を除き30年9カ月ぶりの伸びとなった。それでも企業物価との差は大きい。

企業物価が上がれば、ほどなく消費者物価も上がるのが世界の経験則。経済協力開発機構(OECD)は日本を「例外」と評する。

三菱総合研究所の武田洋子氏らの試算によると、日本は生産コストの消費者物価への転嫁割合が4~6月期までの3四半期平均で28%にとどまる。米国は73%、欧州は49%だ。「日本はデフレマインドが染みついており、価格転嫁が進みにくい」という。

内閣府の推計で、日本は「需要不足」が4~6月期まで11四半期続く。経済の供給力に個人消費などの需要が追いつかない状態だ。輸入要因を差し引いた国内の物価動向を示す国内総生産(GDP)デフレーターは4~6月期まで6四半期連続でマイナスに沈む。

日銀が異次元の金融緩和を始めて10年目。今の流れが続けば通年の消費者物価上昇率はめざしてきた2%を超える公算が大きい。内実は海外発の資源高が主因で、本来の目標である脱デフレにはほど遠いままだ。

「当面、金利を引き上げることはない」。日銀の黒田東彦総裁は22日の金融政策決定会合後の記者会見で緩和を継続する必要性を繰り返し説いた。問題は緩和の長期化がもたらす副作用だ。大和総研の久後翔太郎氏は「低金利下では生産性の低い企業への貸し出しが増加する環境が醸成されやすい」と指摘する。

金利メカニズムが失われれば市場の規律は働かず、より高い収益を目指す意欲は衰える。図らずも到来したインフレが企業をふるいにかける。帝国データバンクによると、物価高が理由の倒産は8月に34件と前年同月の2.6倍になった。22年の累計は150件と、調査を始めた18年以降の過去最多を既に更新した。

負の連鎖を断ち切るにはマインドセットの転換が求められる。コスト削減ではなく付加価値を競い、適正な値決めを追求する。その成長の果実を企業と家計が分け合う。そんな好循環をつくりだせなければ、世界インフレの荒波に日本経済全体が沈みかねない。

舘野真治、石川潤、マクロ経済エディター 松尾洋平、赤間建哉、北京=川手伊織、シンガポール=中野貴司、ジャカルタ=地曳航也、ベルリン=南毅郎、ウィーン=細川倫太郎、ロンドン=篠崎健太、中島裕介、ワシントン=高見浩輔が担当しました。