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藤戸則弘氏「米国株、10月にかけての下げが買い場に」 インフレに勝つ プロの株式投資戦略(1)

第1回の今回は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘さんの見方を紹介する。 

 

――米国のインフレはピークを越えたのではないか、という見方が浮上していたが、9月に発表された8月の米消費者物価指数(CPI)の前年同期比伸び率は市場予想を上回った。

7月の米CPIの総合指数において、前年同期比伸び率がやや鈍化したことから、インフレがピークアウトした可能性があるという見方が強まった。しかしCPIの中で低下したのは、ほぼエネルギー価格のみ。原油価格が、ロシアのウクライナ侵攻直後よりは下がったことを反映しているだけだ。食品価格は高止まりが続き、サービス価格は上昇が続いている。

背景にあるのはタイトな雇用だ。8月の米平均時給の前年同月比伸び率は5.2%増という高水準で、労働時間も伸びている。人手不足に伴う賃金インフレであり、エネルギーや食品を除いたコアCPIが落ち着く兆しはまだ見えない。

となると米連邦準備理事会(FRB)は、年内は粛々と利上げを続けるしかない。23年も継続されるだろう。

日本株は米国株より相対的に底堅い

――相場への影響は。

藤戸則弘さん 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ投資ストラテジスト。約20年にわたり生命保険会社でファンド・マネージャーや年金資金のポートフォリオ・マネージャーとして従事したあと、1999年に国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社。投資情報部長、シニア投資ストラテジストなどを経て、18年7月から現職。

大幅な利上げが続けば、消費や企業業績への逆風となる。米企業の4~6月期決算は、下方修正が警戒されていた割には健闘した。しかし金利上昇の業績への影響は累積的に効いてくるため、7~9月期は幅広い業種で下方修正になるだろう。決算が出る10月中旬以降にかけて、米国株相場には大きめの調整が来ると考えている。

8月の米国株が上昇したのは需給要因が大きい。6月時点の投資家の株式組み入れ比率が、リーマン・ショック後並みに下がっていたことの反動だ。S&P500種株価指数が3700を割れた6月安値を大きく下回るかは分からないが、近い水準まで下げる可能性は想定している。

――日本株はどうか。

米国株にある程度連れ安するが、いくつかのプラス要因があり、相対的に底堅いだろう。日本もインフレが騒がれているが、8月のCPIの上昇率は前年同月比2.8%、生鮮食品とエネルギーを除けば1.6%だ。世界と比べればインフレと呼べる状況ではなく、金融引き締めは行われない。

日米金利差は拡大が続き、ドル高・円安がさらに進む可能性がある。輸出関連株には大きな追い風だ。昔より円安のメリットが縮小したといっても、トヨタ自動車は対米ドルの1円の円安が約450億円の営業増益要因だと発表している。電機や精密機器も同じだ。日経平均株価の構成銘柄の多くは輸出関連株で、円安時には底堅くなりやすい。

バリュエーション面でも、日経平均のPER(株価収益率)は12倍台と、世界の中で割安感がある。円安と併せて、海外にとって買いやすい水準だ。

セクターやテーマ選びよりも流動性の高さが重要に

――10月にかけての調整後の展開はどうなる?

23年も利上げが続くといっても、ペースの鈍化が想定される。1月には日米共に相場は回復基調になるだろう。日経平均は1月に3万円前後まで回復するとみている。

――日米以外の状況は?

欧州のインフレは米国よりも悪い。8月末には天然ガス先物価格が、1メガワット時当たり340ユーロ台まで高騰した。ロシアが経済制裁に対抗して欧州各国にプレッシャーをかける意図で、天然ガスの供給削減をしているためだ。冬が近づけば需要期に入り、さらに価格には上昇圧力がかかる。

――どんな業種が優位になる?

物色の矛先が目まぐるしく変わる相場なので、特定のテーマに決め打ちしない方がいい。重要なのは流動性。日本株はTOPIXコア30銘柄などから好業績企業を選び、秋の相場下落時に仕込む戦略が有効だろう。米国株も同様で、インフレという逆風にさらされても業績が悪化しておらず、流動性の高い銘柄の仕込み時が秋だ。

――資源関連など、いわゆるインフレ関連株はまだ買えるか。

原油価格はピークアウトといっても、まだWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物が1バレル=80ドル超で十分高く、再上昇の可能性もある。石油株や商社株は値動きが荒いだろうが、下落時に仕込む対象としては引き続き有望と言える。ただ、銅などの非鉄金属は中国経済減速の影響が強く、様子見が賢明だ。

不動産はオフィス空室率上昇という悪材料があるが、海外投資家から見た日本の不動産の割安感は強い。安定性の高い銘柄に絞れば、REIT(不動産投信)はまだ買える。来春以降は日銀の黒田東彦総裁の任期満了が近づき、金融政策変更の可能性が意識されるため、不透明感が高まる。

(臼田正彦)

[日経マネー2022年11月号の記事を再構成]