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積水ハウスのチーム、異業種流で変える家の売り方

モデルハウスの展示や耐震技術などを紹介する施設をリニューアルし、モデルとなる家族の「ストーリー」を用意して顧客が家づくりを身近に感じてもらえるようにするなど、工夫を凝らす。スターバックスコーヒージャパンで広報部長を務めた経験を持つ執行役員を中心に、新設したチームが地道に進める。

 

「積水ハウスの強みを伝えるだけの場になっていて、顧客視点ではない。この運用を変えていく必要がある」。スターバックスで広報部長を10年間務め、2018年に入社したコミュニケーションデザイン部長兼CXデザイン室長の足立紀生・執行役員は「住まいの夢工場」を見てこう感じた。

この施設は、外壁などを製造する積水ハウスの関東工場に併設し1997年にオープンした。目的は同社が持つ耐震や耐火性能、住宅構造を支える技術などを徹底的に理解してもらうことだった。

とにかく効率性を求め、多くの顧客を送り込もうとしていた。50人単位の顧客をバスに乗せて施設まで案内し、営業担当者が2~3人で対応にあたっていたほどだ。「人数を追い過ぎたことで手詰まり感もあったのではないか」(足立さん)と反省する。

しかし、休日にわざわざバスで施設まで通っても、細かい技術の話が多く疲れ果ててしまう顧客も多かった。それに、情報はインターネットで簡単に仕入れられる。情報提供の場としての施設の魅力は下がりつつあった。

訪れて楽しい場所に

19年8月、足立さんが率いる部署内に住まいの夢工場の完全リニューアルを目的とする5人ほどのチームが発足した。チームリーダーになった土井徳子さんらが中心になってまず定めたのが、施設のテーマだ。議論の末に決まったのは「住まいのワンダーランド」。技術を伝えるのではなく、顧客が訪れて楽しい場所にしようという方針が固まっていった。

チームには「新事業をビジネスとして伸ばしていくマーケティング活動の経験が限られていた」(足立さん)が、大きなテーマを設定することで活動の指針になった。土井さんは「何を考えるにも判断基準になった」と振り返る。

まず、顧客の案内方法を変えた。1組ずつ営業担当者がついて、丁寧に説明するスタイルにした。

従来は間取りを見てもらいながら予算などを相談する場だったモデルハウスの位置づけも大きく方向転換した。それぞれの住宅に「モデル家族」を設け、20年9月に7棟のモデルハウス「みんなの暮らし7stories(セブンストーリーズ)」をオープンした。

「森さんち」や「ガブリエルさんち」

モデルハウスごとに「森さんち」や「ガブリエルさんち」などオーナーのペルソナ(典型的なユーザー像)を設定している。例えば、森さんちはスタートアップに勤める夫とアートディレクターの妻が2人の子供と4人暮らしをする住宅だ。立地は東京都目黒区で3階建てになっている。病院の院長や食品会社の役員、日本文学者などオーナー像を細かく用意した。

折しも20年は新型コロナウイルスの感染が急拡大した年だ。1組ずつ個別に案内する接客は時代の要請にもかなっていた。ライフスタイルを丁寧に説明する方法は顧客に支持され「現場から顧客が喜んでくれているという報告がたくさん上がってくるようになった」(足立さん)。

TLM関東の中心にツリーハウスを設けた

21年には施設の名称を「Tomorrow's Life Museum(トゥモローズライフミュージアム、TLM)」に変えた。住まいのワンダーランドという目標に向け、子連れの家族が楽しめるように施設中央にある広場にツリーハウスを設置した。子供もわくわくできる施設でなければ、家族が楽しんで住宅を検討する場にはならないとの判断だ。

TLMは茨城県に加えて宮城県や京都府など全国5カ所に展開する。21年のTLM関東への来場組数はコロナ禍前の19年に比べて17%少ない7899組だった。それでも成約した顧客のうち、施設に訪れた顧客の割合を指す成約関与率は上がったという。

今後もチームが一丸となって、住まいのワンダーランドを実現するための施策を打ち出す。「2~3年後には全く違う形になっているかもしれない」(足立さん)。あくまで顧客視点で施設をアップデートしていく考えだ。19年結成の若きチームの役割はまだまだ終わらない。

(仲井成志)