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物価、年内さらに上昇も 来年度以降は2%割れ 日銀総裁の会見要旨

 今回の決定内容について。(1面参照)

 新型コロナウイルス対応金融支援特別オペを段階的に終了しつつ、幅広い資金繰りニーズに応える資金供給による対応に移行していくことを全員一致で決定した。中小企業向けのプロパー融資分は半年間延長し、2023年3月末に終了する。制度融資分は22年12月末に終了する。期限到来後も、幅広い担保を裏付けとして資金を供給する共通担保資金供給オペを金額に上限を設けずに実施することにした。

 長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)は。

 長短金利操作のもとでの金融市場調節について、指し値オペの運用も含め、現状維持とすることを全員一致で決定した。資産の買い入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定した。

 経済・物価の現状と先行きは。

 景気の現状については感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。海外経済は総じてみれば緩やかに回復しているが、先進国を中心に減速の動きが見られる。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は2%台後半となっている。先行きは年末にかけて上昇率を高めた後、プラス幅を縮小していく。

 米国の利上げで円安が進んでいる。

 市場では内外金利差に注目が集まっているが、様々な要因があるのにもかかわらず、円安が進んだことは一方的な動きであり、投機的な要因も影響していると考えられる。円安の進行は企業の事業計画策定を困難にするなど、先行きの不確実性を高め、日本経済にとってマイナスだ。

 円安による経済・物価への影響は。

 円安の影響は企業の業種や規模によって異なる。グローバル企業には収益を押し上げる要因となる一方、非製造業や中小企業にはマイナスの影響が大きくなる。家計にも実質所得の減少などを通じて個人消費を下押しする要因になる。円安で収益が改善した企業が設備投資を増加させたり、賃金を引き上げたりすることが必要だ。

 円安の原因である金融緩和を修正する選択肢はないのか。

 今の為替動向を日米金利差だけで説明するのはいかがなものかと思う。米国は物価上昇率が8~9%になり、中央銀行としては利上げを含む金融引き締めをして、物価を2%の安定目標に近づけるのは当然だ。

 政府が円買い介入を実施した場合、「不胎化」をやるのか。

 介入の判断は財務省の権限と責任なので私から何か申し上げることはないが、YCCをしている以上、現在の金融政策のなかで自動的に円資金の引き締まりは解消されると考えている。

 物価上昇で家計の負担が高まっている。

 日本経済はコロナ禍からの回復途上にある。さらにウクライナ情勢による資源高は、交易条件の悪化を通じて海外への所得流出につながり、景気の下押し圧力になる。現在は経済を支えて賃金の上昇を伴う形で物価安定目標を実現することが必要で、金融緩和を継続することが適当だ。当面、金利を引き上げることはない。

 物価上昇率が3%以上になるとの予想もあるが、物価は安定しているのか。

 現在の消費者物価の上昇率は2.8%と相当高くなっているし、年内にさらに上昇する可能性もあるとみているが、23年度以降はまた2%を割る水準まで落ちていく。現時点では賃金が上がり物価も安定的に上がっていく形になっていないし、このままでは来年もならない。再来年もなかなか難しい状況だ。

 賃上げを巡る環境をどうみるか。

 夏のボーナスは高水準の企業収益を反映して製造業を中心にはっきりした上昇を示している。先行きはペントアップ(先送り)需要が顕在化して対面型サービス部門に多い非正規雇用の賃金が徐々に上昇基調が明確になっていくとみている。供給制約の緩和に伴って製造業でも賃金が上昇すると見込んでいる。

 金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)も維持した。

 感染症の抑制と経済活動の両立が進んでいるが、依然として感染症の影響を受けていることは事実で、先行きも経済の下振れをもたらす要因として注意が必要だ。今の時点でフォワードガイダンスを変更する必要は無いと思うし、変更する場合もその時の経済・物価の状況を踏まえて行われることになる。

 先行き指針の修正や利上げは当面ないと言うが、「当面」とは。

 当面というのは数カ月ではなく2~3年と考えたほうがいい。経済・物価情勢にあわせて微調整はあるかもしれない。ただ、フォワードガイダンスの変更は経済・物価情勢の転換によって金融緩和を修正していく時点で考えられることだ。

 他国が利上げに動くなか、緩和的な環境を維持する必要はあるのか。

 物価の状況が違うもとで金融政策が異なるのは当然だ。コロナオペはほぼ目的を達成したので段階的に終了するが、輸入価格の上昇による資金繰りニーズも出てきており、幅広く対応できる仕組みを作った。

 マイナス金利の副作用は。

 マイナス金利は日銀当座預金全体に付しているのではなく、政策金利残高に付している。金融機関の財務への影響はできるだけ小さくなるようにしており、マイナス金利は大きな副作用、問題を引き起こしていない。経済・物価状況が違う国と比較して日本もなくす必要があるとは思わない。

 国債市場の機能度が低下している。

 海外金利の変動の高まりもあって、先物や超長期ゾーンを中心に債券市場におけるボラティリティー(変動率)が上昇していることなどが影響しているのではないか。日銀としては国債市場の機能度に配慮して様々な手段を講じてきた。

 日銀の国債保有割合が5割に迫っているが、財政ファイナンスではないのか。

 日銀の国債買い入れはあくまでも2%の物価安定目標を実現する金融政策目的で実施しており、政府による財政資金の調達支援を目的としたものではない。