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円への不信感、拭えぬ個人 マネー、海外流出止まらず

政府・日銀が円買い・ドル売り介入に踏み切り、通貨防衛は新たな局面に移行した。だが日本の低金利は変わらず、個人マネーは海外資産にじわりと流出が続く。20~40代の資産形成層が抱く、円や日本経済への不信は強い。場当たりの対応で円の価値を支えられるか。市場はなお確信がもてないままだ。

 

22日午後。1ドル=145円台に突入したニュースをみて、飲食店を経営する東京都内の30代男性は「150円を目指しても不思議はない。円高に振れればドルを拾っていく」と淡々と話した。

実際、8月に1ドル=130円台まで円高が進んだ局面では「自分なりに相当な額のドルを買った」。円への不安の背景は、新型コロナウイルス禍だった。「行政からの補助金で経営は持ちこたえたが、こんな大盤振る舞いを繰り返す国の財政や通貨は大丈夫かと恐くなった」という。

別の40代の男性会社員も、手取り月収の3分の1を外国株投信に回す。「保有資産の外貨比率は約3割。もう少し高めたいので、円買い介入があっても積み立てを続けていく」という。

円と日本経済の弱さに個人の失望は深い。米アップルの新型スマートフォン「iPhone14 Pro」の日本での最低価格(税込み)は14万9800円。前機種の「iPhone13 Pro」の発表時からは2万円以上も上昇した。円安が理由だとファンは嘆く。

「ビッグマック指数」は日本の購買力の落ち込みを如実に示す。英エコノミスト誌によると、最新7月の価格は米国で5.15ドル(約730円)、日本は390円。2倍近くも払わなければ米国ではハンバーガーを買えない計算だ。

 

円安や海外の物価高、航空運賃の実質的な値上がりで海外旅行も行きづらくなった。みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「国民は『円安のせいで貧しくなっている』という通念に影響されやすくなっており、資産形成に影響が及びそうだ」と指摘する。

家計における外貨建て資産の金額はこの20年で増加した。2002年と22年の6月末時点を比較すると、家計資産における対外証券投資は9兆4000億円から22兆3000億円、外国の投資信託は5兆7000億円から34兆9000億円に増えた。みずほ銀行が日銀統計をもとに試算した。

6月末時点で円の現預金は1100兆円近くと、なお家計の半分以上を占める。うち1割が外貨建て資産に動くだけで100兆円超の円売りを生む。為替介入の原資となる外貨準備に匹敵する規模だ。

円の先安観は強い。別の会社員男性は「今年に入り外国株投信を買い始めたが、為替ヘッジはつけていない」と話す。三菱アセット・ブレインズによると、外国株投信への資金流入額に占める「為替ヘッジなし」の比率は100%近い。

米国は景気後退を避けられないとの見方は強まっており、円安が調整局面を迎える可能性はある。だが個人の外貨シフトが続けば、根雪のような円売り圧力となる。

円買い介入や金融緩和の修正でも、この流れは変えられないかもしれない。小手先の対応ではなく、根底にある日本の未来への懸念を払拭できない限り、日本は長期にわたって円安に悩むことになる。

(中元大輔)