· 

〈ノーベル技術 迫る一歩〉太陽電池、次の「本命」量産 積水化・東芝、25年にも事業化 寿命・効率の向上にめど

欧州や中国の企業に先行を許したが、積水化学工業東芝が2025年以降に量産を始める。得意とする材料技術などを駆使し、弱点だった耐久性や変換効率を高め、従来電池の半額にして市場での巻き返しを狙う。

 

ペロブスカイト型太陽電池は09年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明した。ノーベル賞の有力候補とされ、印刷技術を使いシリコン型の半額で製造できると期待される。重さはシリコン型の10分の1で折り曲げられる。建物の壁や電気自動車(EV)の屋根など従来難しかった場所にも設置できる利点がある。

「屋外で10年に相当する耐久性を達成し量産にめどがついた」。積水化学の次世代技術開発センター長の森田健晴氏は胸を張る。ペロブスカイト型は湿気に非常に弱く、材料をいかに封じ込められるかが耐久性のカギで企業を悩ませてきた。

同社には液晶ディスプレーや車のフロントガラスの製造で薄膜材料を封じ込める技術を磨いてきた強みがある。これをもとに実用化に必要な耐久性を達成した。30センチメートル幅の太陽電池の試作を始めており、25年に事業化する。JR西日本が25年に全面開業を目指す「うめきた(大阪)駅」の広場への設置の検討を始めた。積水化学は1メートル幅の製造法も開発しており、26年に量産を始める見込みだ。

耐久性と並び課題だったエネルギー変換効率も高まってきた。東芝は21年、均一に材料を塗布する製膜法を開発し、約700平方センチメートルの試作品で15.1%の変換効率を達成した。25年度の実用化を目指す。積水化学もこのたび30センチメートル四方で同15%を達成している。

さらに高めようとする企業もある。カネカはシリコン型と組み合わせる「タンデム型」を手掛ける。より広い波長域の光を吸収でき、1平方センチメートルの試作品では同29%とシリコン型と同等以上だった。

ペロブスカイト型は日本発の技術だが、実用化では海外勢が先行する。21年5月にポーランドのスタートアップ、サウレ・テクノロジーズが工場を開設したほか、中国の大正微納科技は22年7月に江蘇省に設置した年間生産能力10メガ(メガは100万)ワットの設備で、スマートフォンのメーカーなど向けに大型パネルの量産を始めた。

ただ海外勢の生産規模はまだ小さく、一般向けの製品はほぼない。日本企業が技術力を高めてコストや性能で優れた製品を量産できれば勝機はある。

そのための大きな課題は製品の歩留まりだ。ペロブスカイト型は発電する薄膜に欠陥が生じやすい。積水化学の場合、試作品のうち製品としての品質を満たすのは数%だという。

ペロブスカイト型の製造コストはシリコン型の半分になると期待されるが、歩留まりがコスト削減の妨げになっている。すでに量産している大正微納科技の場合、現時点の製造コストはシリコン型の約3倍だ。積水化学などの研究を支援する新エネルギー・産業技術総合開発機構は、30年までにシリコン型と同等以下の発電コストにする目標を掲げる。

材料に環境負荷が高い鉛を使うのも普及の妨げだ。例えば京都大学発スタートアップのエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)はスズで代替し、鉛の使用量の半減を狙う。安心して使えれば「身に着けるウエアラブルコンピューターなどにも使える」と若宮淳志最高科学責任者(CSO)は期待する。ただ、まずは代替なしで鉛を使うタイプで24年に30センチ角のパネルの量産を始める。

富士経済によると、ペロブスカイト型の世界の市場規模は35年に7200億円と、21年の約50倍に増える見通しだ。日本勢の先行きについて、同社の川合洋平エキスパートは「各社が量産や価格競争に必要な数十億円以上の設備投資を長期的に続けられるかがポイントだ」と指摘する。

既存の太陽電池やリチウムイオン電池はかつて国内企業が高い世界シェアを誇ったが、投資規模に勝る中韓勢が生産規模を増し、コストを抑えて市場を奪った。同じ轍(てつ)を踏まない経営判断が求められる。