· 

FRB議長「経済の軟着陸、非常に困難」 会見要旨

「物価安定の回復のためには、しばらく引き締め政策を維持する必要がある」と述べ、利上げ継続の方針を示した。主な発言と質疑応答は以下の通り。

我々は物価上昇率を目標の2%に戻すことに強く注力している。米国の家庭と企業のため、物価安定を取り戻すのに必要なツールと決意がある。物価の安定はFRBの責任であり、経済の基盤だ。

本日、FOMCは政策金利を0.75%引き上げると決めた。利上げの継続が適切だと考える。バランスシートの規模を大幅に縮小するプロセスを続ける。

米経済は2021年の歴史的な高成長率から鈍化している。消費と生産の指標は緩やかな伸びを示している。個人消費は実質可処分所得の縮小と、金融引き締めを受けて21年よりは減速した。住宅市場はローン金利上昇により著しく弱まった。金利上昇と生産鈍化が企業の設備投資を圧迫し、海外経済の成長鈍化が輸出を停滞させているようだ。

経済・政策見通し(SEP)で参加者は経済見通しを下方修正し、実質国内総生産(GDP)の増加率の中央値は22年で0.2%、23年で1.2%とした。長期的な成長見通し(1.8%)を大きく下回る成長率だ。

逼迫する労働市場「バランス欠く」

それにもかかわらず、労働市場は極めて逼迫した状況にある。失業率は50年ぶりの低水準にあり、求人倍率は歴史的な高水準で、賃金上昇率も高い。過去3カ月の平均雇用者数は月37万8000人となった。労働市場はバランスを欠いており、求人需要が労働者の供給を大きく上回っている。

労働参加率は22年初からほぼ変わっていない。FOMC参加者は、賃金と物価の上昇圧力によって労働市場の需給バランスが改善することを期待する。SEPによると失業率は23年に4.4%に上昇するとみており、6月時点の予測より0.5%高まった。今後3年間の失業率の中央値は長期予測を上回る。

8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で8.3%、(食品とエネルギーを除く)コアCPIは6.3%それぞれ上昇し、幅広い商品とサービスでインフレ圧力が明白だ。ガソリン価格はここ数カ月で下落したが、ロシアのウクライナ侵攻が価格上昇圧力となっている。

FOMC参加者によるインフレ予測はPCE物価指数で22年が5.4%、23年が2.8%となっており、参加者は引き続き上昇リスクがあるとみている。長期の期待物価上昇率は安定しているようだが、満足してはならず、高インフレが長引くほど期待物価上昇率も上がったまま定着する可能性がある。

我々は、高インフレが食料や住宅、交通などの必需品のコスト上昇に対応できない人々に大きな苦難を強いることを理解している。インフレを目標の2%に戻すため力を尽くしている。

本日の(利上げ)措置により、22年中に3ポイントの利上げを実施した。金融政策のスタンスが引き締まるにつれ、ある時点で我々の政策が経済やインフレに与える影響を考慮しつつ、利上げペースを減速させることが適切となるだろう。物価安定の回復のためには、しばらく引き締め政策を維持する必要がありそうだ。

「早まった緩和転換」に歴史の戒め

過去の歴史は、早まった緩和転換を強く戒めている。SEPが示すように、22年末の政策金利見通し(中央値)は4.4%で、6月時点の予測より1ポイント高い。23年末に4.6%となり、25年末に2.9%に下がる。それでも長期予測を上回る水準だ。

我々は需要と供給がより調和するよう、強制的かつ迅速な手段を講じている。インフレの抑制には、潜在成長率を下回る成長率を持続させることが必要で、労働市場が弱まる可能性も非常に高い。我々は、仕事が終わったと確信できるまで続ける。

メッセージ、「ジャクソンホール以来変わらず」

――利上げのペースを緩めたり、止めたりするのはいつか。

「私のメッセージは(8月末の)『ジャクソンホール会議』以来変わっていない。インフレを2%に抑えることに尽力し、対応を続けるということだ。そのためには潜在成長率を下回る経済成長率と、労働市場の需給バランスの改善が必要だ。FOMC参加者の予測では22年と23年の経済成長率が長期予測を下回るとみている。一方で、労働市場の冷え込みを示す兆候はほとんどない。求人はいくぶん鈍化したが、退職者数は過去最高だ。利下げは、インフレが2%に戻ると確信できて初めて検討する」

「正確なタイミングを把握するのは難しいが、まだその状況には達していない。現在は最も低いレベルの引き締め状態にやっと到達したところで、道半ばだとみている」

――金融政策の効果が表れるまでには時間がかかる。

「我々の政策は金融情勢に直ちに影響する。金融市場は我々が実際に決定を発表する前から反応し、そこから数カ月たって経済活動に影響を与え始める。金融情勢の変化がインフレに完全に影響を与えるにはしばらく時間がかかるので、我々は注視している。ある時点で利上げペースを落とし、経済への影響を評価することが適切だ」

――23年の失業率の見通しを4.4%としているが、歴史的にみて景気後退をもたらす水準だ。景気のソフトランディング(軟着陸)は難しく、インフレを抑えるためには必要か。

「労働市場は過去にない状況だ。失業率が大きく上がることなく求人倍率が大幅に下がる可能性がある。期待物価上昇率は安定している。今回のインフレはパンデミックに伴う供給制約やロシアのウクライナ侵攻がもたらしたものだ。過去の景気サイクルではみられなかった特殊要因で、それらの要因が解消すれば事態が好転する可能性がある」

「ソフトランディングは非常に困難だ。一連の引き締めが景気後退につながるのか、それがどの程度になるのかは誰にもわからない。インフレがどれだけ早く収まるか、期待物価上昇率が安定するかにかかっている。労働供給の増加もその一助となるだろう。引き締めが続くほど、ソフトランディングの可能性は低下する。それでも物価安定の回復に失敗すれば、後々にはるかに大きな痛みを伴う」

年内の利上げ幅「決めていない」

――次の会合では0.75%の利上げをする理解でいいのか。

「SEPでの22年末の政策金利見通しを踏まえるとあと1.25%分の利上げが必要になるが、今回の会合で決めたわけではない。政策金利を引き締め水準に持っていくということだ」

――インフレ基調が強まっているようにみえる。なぜ今回1%の利上げをしなかったのか。

「全体のデータに基づいて決断する。一つの指標に過剰に反応しすぎてはいけない。トレンドでいえば22年のインフレは大きすぎる。それ以上のことを知る必要はない」

世界経済への影響も注視

――多くの中央銀行が同時に金融引き締めに動くことで、インフレ抑制に必要な経済の減速を超え、世界的な景気後退につながるとの懸念がある。そのリスクはどのぐらいあるのか。他国の中央銀行と連携する予定は。

「私は同僚とともにスイスのバーゼルから帰国したばかりだ。世界中の中央銀行関係者と連絡を密にしている。我々の最大の目標は米経済だが、常に世界経済への影響も考慮している。我々はそれぞれ異なった状況におり、中央銀行は異なる金融政策を行なっているため調整とまではいかないが、情報共有はしている」

――労働市場は逼迫し、消費や企業業績も堅調だ。米経済の利上げへの耐久性をどうみるか。

「住宅市場が利上げに敏感に反応して減速し、為替レートが輸出入に影響を及ぼしているが、米経済は堅調だ。家計は貯蓄を持っており、成長を支えるだけの貯蓄がまだある。この先もそれなりに強い経済が続くだろうが、潜在成長率は下回るとみている」

景気後退確率「分からない」

――引き締めが続けば多くの失業者が出る。実際に景気が後退する可能性はどれほどあるのか。

「確率は分からない。経済成長が鈍化するのはほぼ間違いない。失業率も上がるだろう。それでも労働市場の鈍化は必要だ」

――高インフレが最大雇用を脅かすと指摘している。具体的にどういうことか。

「多くの国民は賃金上昇が物価上昇に追いついていないと感じている。収入のほとんどがガソリン、交通費、衣食住などの生活必需品に費やされる世帯にとってインフレは大きな脅威だ。米国のインフレ率は歴史的に2%前後を保ち、米経済に大きな恩恵をもたらした。この状態に戻り、維持することが我々の役目だ」

――家計や企業はどの程度と期間、経済的な「痛み」を覚悟する必要があるか。

「インフレがどのくらいで収まるかによる。収まれば経済が回復する。18~20年にみられたような低い失業率、低所得層に対する賃金の上昇も期待できる。金利上昇、経済成長の鈍化、労働市場の弱含みは国民に痛みを伴うが、物価の安定を取り戻すことに失敗するほどの痛みではないだろう」

住宅市場、調整を経てバランス回復

――中古住宅販売件数は7カ月連続で減少し、住宅ローン金利は08年以来の高水準となった。6月の記者会見で指摘していた住宅市場の「リセット」とはどういう意味か。

「需給の崩れで住宅価格は持続不可能なペースで上がってきた。今回の価格下落は需給のバランスを一致させるという意味で長期的に良い傾向だ。人々は妥当な価格で再び家を買うことができるようになる。景気循環の観点で、住宅市場はこの困難な調整局面を経てよりよいバランスになると考える」

――CPIでは家賃などの住居費が大きな割合を占めている。家賃動向をどうみるか。

「しばらく高止まりするだろう。長期的には下がることを予測しているが、いつかはわからない。家賃インフレはしばらくかなりの高水準で推移すると考える必要がある」

――23年の政策金利見通しが4.6%とすると、フェデラルファンド(FF)金利から期待物価上昇率を引いた実質FF金利はどうなるか。

「まずはインフレ指標を見る必要がある。インフレ抑制に成功すれば、実質FF金利はプラスになり、1%程度で推移するだろう。正確な数値はまだわからず、今後も様々なデータを見ていく必要がある」

(米州総局=大島有美子、伴百江、赤木俊介、佐藤璃子)